レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
特別編はブルゴーニュをこよなく愛する菊地シェフによる「ジャンボン・ペルシエ」をご紹介します。
ブルゴーニュでパセリを使った伝統料理と言えば、ニンニクとバターで熱々に加熱し、パセリをふりかけた「エスカルゴのブルゴーニュ風」を思い浮かべる方も多いかもしれません。これが熱々の前菜なのに対して、ジャンボン・ペルシエは冷製の前菜です。そんな二つの共通点は、ブルギニオン(ブルゴーニュの人々)が愛する料理ということ! 口に入れた瞬間に、パセリの爽やかな香りが広がりコリコリした触感と肉の旨味が楽しめます。そしてワインとの相性が抜群。
ワインに造詣の深い菊地シェフに、どんなワインと合わせるのがお薦めかも伺いました。
※2024年のフランス料理文化センター(厨BO!)で実施したセミナーで実演されたものを編集し、新たに取材した内容を追加しました。
ジャンボン・ペルシエ
菊地 美升さん
(『LE BOURGUIGNON』)
材料
<材料>
- 豚スネ肉:2本
- 豚足:1本
- 豚耳:1枚
- タマネギ:1個
- ニンジン:1本
- セロリ:1本
- ニンニク:1頭
- ジュレ
- 板ゼラチン:7g
- パセリの葉:60g
- 煮汁:400g
- ソミュール
- 水:2L
- 岩塩:160g
- 硝石:12g
- ニンニク:1片
- グローブ:2本
- ローリエ:2枚
- 白コショウ(粒):6粒
作り方
- ソミュールを作る。分量を合わせて、鍋で沸かし、冷ます。
- 肉を掃除する。スネは骨を外す。1のソミュールの中に漬け込む。(4~5日間)
- 2を軽く水で洗い、水分をよく拭き取る。鍋に水を入れ、肉を入れて一度ブランシール※1して、再度、毛などが残っていないかチェックする。
- 鍋に水を入れて沸かし、肉を入れ、エキュメ ※2する。ミルポワ※3を入れ、塩で味を整え、弱火で煮込む。(約3時間)
- 柔らかく煮た肉は骨を取り除いて、一口大にカットする。
- ジュレを作る。パセリはさっと茹でて氷水に入れてよく冷やし、しっかり水気を取る。
- 煮汁とパセリ、ゼラチンをミキサーで回す。
- ボールの中で肉とジュレを混ぜ、味を調整して、軽く冷やしテリーヌ型に流す。
- よく冷やし固める。
- (盛り付け)テリーヌをカットして、サラダを盛り、手前にテリーヌ、付け合わせにコルニッション、ケッパーベリー、マスタードを添える。
<フランス料理用語注釈>
※1・・・ブランシール(blanchir)(野菜や内臓などを)下ゆでする
※2・・・エキュメ(écumer)灰汁(あく)をすくう
※3・・・ミルポワ(mirpoix) 出汁や煮込み用に使う香味材料(ニンジン、タマネギ、セロリなど)のさいの目切りのこと
▲カミソリで丁寧に表面を掃除
▲豚スネ肉と豚足の骨を外したもの(左上)。豚耳は別で1㎝角(好み)にカットし、混ぜ合わせ、歯ごたえの変化をつける。煮汁とパセリ、ゼラチンをミキサーにかけ、肉と混ぜ合わせ味を整え、テリーヌ型に流し冷やし固める
菊地シェフとジャンボン・ペルシエ
私にとってのジャンボン・ペルシエの原点
▲ボーヌのマルシェにて。左端に写っているのがジャンボン・ペルシエ
ブルゴーニュをこよなく愛する菊地シェフが今回の「アトラス料理セミナー」の一皿目に選んだのがブルゴーニュ地方を代表する郷土料理のひとつ【 Jambon persillé(ジャンボン・ペルシエ)】。日本語で表現すると「ハムとパセリのゼリー寄せ」です。
毎年恒例で行かれているフランス研修(昨年10月)の際に現地で食べて、改めてその美味しさに感動、また研修時に撮影したマルシェの写真に写っていた「ジャンボン・ペルシエ」を帰国してから眺めていて「やっぱいいなあ。」と。ということで最近ご自身のレストラン「ル・ブルギニオン」でも数年ぶりにメニューに再登場させたそうです。
菊地シェフにとっての「ジャンボン・ペルシエ」の原点はフランス修業時代に働いたブルゴーニュ地方の街「ボーヌ」のミシュラン一つ星レストラン「エキュソン」で経験した仕事にありました。
そのお店の「ジャンボン・ペルシエ」はとてもオリジナティーに溢れていて、普通は豚肉で作るところを「エキュソン」では高価なブレス鶏の希少な部位である「ソリレス」をふんだんに使うという他に類を見ない「ジャンボン・ペル
シエ」を作っていました。「ソリレス」とは鶏もも肉の足の付け根にある部分で、一羽から2つしか取れない40gくらいの小さな肉です。それを何十個も使うわけですから超高級料理です。
後に菊地シェフは日本に帰国し「アンフォール」でシェフをしていた初期にこの「ソリレス」がインポーターを通じて手に入ったこともあって「ソリレスのジャンボン・ペルシエ」を作っていたそうですが、セミナー当日は、作り方はちょっと忘れてしまった・・・。と仰っていました。因みにこの「ソリレス」今は輸入されていないとのことです。
今回、作っていただいた「ジャンボン・ペルシエ」も菊地シェフオリジナルで、骨付き豚すね肉・豚足・豚耳を使用します。様々な部位を使って、食感の面白さを出したり、日持ちするようにパセリをブランシールして加えるなど創意工夫が施されています。
▲20年以上に渡り、毎年フランスを訪れているという菊地シェフ。ブルゴーニュの畑にて
私が選ぶ白ワイン
1本目
この「ジャンボン・ペルシエ」に合わせて菊地シェフに特別に選んでいただいた白ワインがこちら。
「 Domaine de Villaine Bouzeron 2017 ドメーヌ・ド・ヴィレーヌ ブーズロン2017」です。
ロマネ・コンティの共同経営者であるオベール・ド・ヴィレーヌが運営するドメーヌでコート・シャロネーズ地区の小さなブーズロン村に1970年代前半に設立され、有機農法によるぶどう栽培を行いながらワイン造りを続けています。
長年ミシュラン三ツ星に輝く「ラムロワーズ」があるChagnyの隣に位置するブーズロン村と言えばアリゴテ種から造られる白ワインが有名。ブーズロンを名乗れるのはアルゴテ100%で造られたワインのみ。至極の逸品です。
レモン、洋ナシ、リンゴなどの熟した果実香、ミネラルの香り、そして旨味が詰まったしっかりとした果実味、隠し味のようにエレガントな酸がバランスをよくしているワインです。酸味が強いアリゴテとは、全く違うレベルのアリゴテです。
調理デモンストレーションを終えて少し安心したこともあり、菊地シェフは、ブーズロン2017を
ひと口ふた口飲み込むと満面の笑顔で「美味しいねえ!」とご機嫌でした。
2本目
さらに、もう一つ、予算を気にせずワインを選ぶとしたらお薦めのワインはありますか?といってシェフに選んでいただいたワインがこちら。
「Jean-Claude RAMONET BOUZERON 2021 ジャン・クロード・ラモネ ブーズロン 2021」です。パセリのハーブ感や爽やかな感じと肉の旨味が楽しめる「ジャンボン・ペルシエ」にはブルゴーニュブランやシェルドネを使ったワインなど、キリっとしたタイプのものが合うとのこと。『「ふくよかさ」ではなく「キリっとしたもの」が良いと思います。こちらは、シャサーニュ・モンラッシェの中でもトップクラスの作り手。シャサーニュや「ル・モンラッシェ」といったグランクリュでも凄いワインを造っています。そこのカジュアルレンジのものなんです。アリゴテ種を使っていて、ジャンボン・ペルシエには丁度良く合うと思います。この人が作ると、酸も綺麗で、少しふくよかさもあって、美味しいワインです。若いのが良いと思い、2021年を選んでみました。』とのこと。
シェフのお店でぜひジャンボン・ペルシエと一緒これらのワインを楽しんでみたいですね。
▲ル・ブルギニオンの店先に掲げられたメニュー
菊地 美升(きくち よしなる)
1966年北海道生まれ。
辻調理師専門学校卒業後、「オー・シザーブル」(3年半)、「クラブNYX」( 約2年)を経て、1991年渡欧。
リヨン近郊「プーラルド」(1年)、モンペリエ「ル・ジャルダン・デ・サンス」(1年)、ボーヌ「レキュソン」(1年半)、フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」(10カ月)で修業。
1996年帰国し、「アンフォール」で3年4カ月シェフを務める。
2000年独立し、「ル・ブルギニオン」オープン。
LE BOURGUIGNON(ル・ブルギニオン)
〒106-0031 東京都港区西麻布3-3-1
定休日:水曜日・第二火曜日
写真提供:アートファイブ、菊地美升シェフ
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