レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
▲エクルヴィスのグラタン(Gratin de queues d'ecrevisses)作り方はこちら
▲レストランの名前の由来のピラミッドは店からすぐ
さて、前月ご紹介した『エクルヴィスのグラタン』。今月はその「ワイン編」をお届けします。ご寄稿いただいたのは「ラ・ピラミッド」や現オーナーシェフ、パトリック・アンリルー氏と日本で長年仕事をしてこられたメートル・ド・セルヴィスの会、会長の山本さんです。日本でのフェルナン・ポワン没後50年の賞味会に足を運ばれた方も居られるかもしれませんね。どんなに素敵だったろうと想像してしまいました。フランス料理愛に溢れたエッセイをどうぞお楽しみください。
~ 第2章 ~
ワインの話
山本 正弘(やまもと まさひろ)さん
(メートル・ド・セルヴィスの会 会長/学士会館精養軒 取締役営業料飲事業部長)
コラムをご愛読の皆様、メートル・ド・セルヴィスの会 山本正弘です。初めての登場になりますが、気持ちも身体も温まる、そんな料理と飲物のお話しが出来ると良いなと思っております。宜しくお願いいたします。
さて、今年初めのフランス料理は、何と!フェルナン・ポワンじゃないですか!La Pyramideじゃないですか!前回の「ヴォロオヴァン」もしびれる料理でしたけれど、Tシェフ、素晴しいです~。
忘れられないイベント
エクルヴィスのグラタンで真っ先に思い出すのは、以前私が勤めていたレストランがLa Pyramideのパトリック・アンリルーシェフと提携していたので「2005年はフェルナン・ポワン没後50年なんだよ。ヴィエンヌでは盛大に祝おうと思う。東京でもやってくれないか?」とパトリックシェフに言われたことです。願っても無いことでした。なぜなら「ラ・ピラミッド/フェルナン・ポワン」という商号はパトリック・アンリルー氏がその権利を持っており、世界中でそれが出来るのはヴィエンヌと東京のココだけだったからです。
さあ、それから約半年の間、準備が始まりました。まずは料理はどうしよう。これはパトリックさんからの提案もあって、ファルナン・ポワンの代表的な料理を並べたコースにしよう、となりました。〈伝統的なアミューズ4種類〉、〈鴨のフォアグラのテリーヌ ブリオッシュ包み〉、〈エクルヴィスのグラタン〉、〈平目のシャンパン蒸し〉〈ブレス産肥鶏のヴェッシー包み〉、〈ガトーマルジョレーヌ〉。メニューの文字を並べただけでお腹がいっぱいになりそうな料理です。このイベントを迎えるに当たって、改めてフェルナン・ポワンとラ・ピラミッドの歴史を復習したほどです。 Tシェフがコラムで言われていた「Mado Point」=Marie Louise Point が1980年代に書かれた当時のラ・ピラミッドのメニュー、コピーですが私も大切に持っています。フォアグラのブリオッシュ包み、ブレス鶏のベッシー包みは、ゲリドン(ワゴンサービス)でしたが日仏二人のメートル・ドテルで、ずっと満席だったフェア期間中、何羽ものブレス鶏を捌きました。目が回るような忙しさでしたが、とても楽しく良い思い出です。
▲フェルナンポワン氏とマダム、スタッフの写真(写真提供:ラ:ピラミッド)
合わせるワインについて
さて、前置きはこのくらいにして(ピラミッド話しはまだまだたくさんありますから後日にでも・・・。)肝心のワインのお話しに参りましょう。私はソムリエさんではないので専門的な事は前項に登場した長谷川純一さんにお任せするとして、このエクルヴィスには何がベストマッチかな、と思えばこれは王道、「シャトーグリエ」Château-Grillet です。地元ローヌ地方を代表するワインですね。ただ、これではちょっと値が張ります。そこで、「Château-Grillet Côte du Rhône」というセカンドがみつかったらぜひトライして下さい。それもなければ、コート・デュ・ローヌのワインでブドウ品種がヴィオニエ(Viognier)100%のものであったら手に取ってみて欲しいと思います。
大きく外れることはないかと思います、そして出来れば安くて古いものが良いです。エビ類は特に滋味あふれるものですから、少し個性的でも濃い味わいの辛口白ワインが私は好きです。エクルヴィスをお家で調理することは中々無いでしょうけれど、エビの殻の風味を利かせたグラタンで、料理のお話しに出ていた「ソースオランデーズ」の料理にも良く合うと思います。
▲コートロティの畑から見えるヴィエンヌの街とローヌ河。この急な斜面が美味しいワインを生み出す秘訣
フランス5大"白"ワインについて
ワインのコラムなので、ワインについても少し。先ほどのシャトーグリエ Château-Grillet ですが、フランスの「5大白ワイン」と言われています。ワイン好きの方なら「ボルドー5大シャトー」という言葉を聞かれたことがあると思います。一度は飲んでみたいものですよね。「5大シャトー」はフランスメドックの格付け第1級の称号を与えられたシャトーを言います。1855年パリ万国博覧会開催に際してナポレオン3世がフランスの農産物の代表格として、当時パリよりも地理的に近いイギリスに輸出されているボルドーワインに目を付けました。取り引きされているワインの価格等を高い順番に1級から5級まで評価を付け、買い手の購買意欲を掻き立て、ワインの質の目安とさせたのです。当初は「ラフィット・ロートシルト」「マルゴー」「ラトゥール」「オー・ブリオン」の4大シャトーでしたが、その後1973年に「ムートン・ロートシルト」が昇格を果たし、5大シャトーとなりました。では、「5大白ワイン」とは何でしょうか。かの有名なフランスの料理評論家「キュルノンスキー」CURNONSKY 1872-1956(モーリス・エドモン・サイヤン)が1930年代に吟味を重ねて選定したものだそうです。そのワインは「ブルゴーニュのモンラッシェ」、「ロワールの クーレ・ド・セラン」、「ジュラのシャトー・シャロン」、「ローヌのシャトー・グリエ」、「ボルドーのシャトー・ディケム」です。フランスの様々な地域から、個性豊かなワインが並んでいます。お気付きかもしれませんが、作られるワインのブドウ品種が100%単一か、それに近いものです。それだけにそれぞれ明確な特徴があります。
再び合わせるワインについて
最後に少し。フランスで選ぶなら同じ地域性で「コンドリュー」Condrieu(E.Guigal)なら最高です。少し買いやすいものもあります「マコン・ヴィラージュ」Macon-Villagesは如何でしょう? 良いものなら(Domaine Perraud)がお薦めです。フランス・アルザスのリースリングも料理を引き立ててくれそうです。有名なものでは「トリンバック TRIMBACH」のRIESLING 星付きレストランでもラインナップされるワインです、高価ではないスタンダードで充分です。フランス外なら最近好きな「ザナドゥ ソーヴィニョン・ブラン セミヨン」XANADU Sauvignon Blanc Semillon。西オーストラリア マーガレットリバーのワインです。離れて南東部ビクトリア州でマルサンヌ種で作られる「ターブルク マルサンヌ」Tahbilk Marssane などでしたら価格も手頃かと思います。
お料理とワインの合わせ方は、お家とレストランでも異なりますね。お家でする時は自分がソムリエ世界チャンピオンにもなれます。逆にレストランでは、私はいつもワイン初級者でいるようにしています。
▲ローマ時代の遺跡があちこちに残るヴィエンヌ。有名な夏のヴィエンヌ・ジャズフェスティバルはこの歌劇場が会場。13000人も収容し、今も現役。眺望も楽しめる。
寄稿者:メートル・ド・セルヴィスの会会長 山本正弘(やまもと まさひろ)
学士会館精養軒 取締役営業料飲事業部長
一般社団法人 フランスレストラン文化振興協会(APGF)副会長
フランス農事功労章協会(MOMAJ)理事
関東ダイニング・マネージャー・カンファレンス(D.M.C.)副会長
レストランサーヴィスコンクール「 メートル・ド・セルブィス杯」審査委員長
全日本メートル・ドテル連盟(U.N.M.H.J)幹事
2006年 クープ・ジョルジュ・バティスト協会 特別栄誉賞 受賞
2007年 フランス共和国 タスト・フロマージュ シュヴァリエ 受章
2018年 フランス共和国 農事功労章 シュヴァリエ 受章
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