レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

イル=ド=フランス地方

鴨のモンモランシー風(2)『ワインの話』

Canard à la Montmorency

 さて、鴨のモンモランシー風「レシピの話」に続き、今月はこのお料理に合う「ワインの話」についてご紹介します。ご寄稿いただいたのはメートル・ド・セルヴィスの会の長谷川純一さんです。レストランの支配人としてだけでなく、ワインスクールの講師としても活躍されており、『メートル・カナルディエ』という称号もお持ちです。因みに、これはフランス・ルーアンの伝統料理の「小鴨のルーアン風 ( Le caneton à la rouennaise)」を厨房と連携を取りながら客前で切り分け、鴨のガラから血を絞り、ソースを仕上げるものでで「食の伝統芸術」とも言われています。国際認定試験に合格するとメートル・カナルディエになることが出来ます。
 多くのサービスパーソン、ソムリエを魅了する「鴨」とは? さまざまなマリアージュが可能な時に、ソムリエが考えることとは? このようなソムリエさんがいるとシェフもお客さまも嬉しいですね! 長谷川さんの並々ならぬ「鴨」への愛と共に、続きは本文でお楽しみください。

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▲鴨のモンモランシー風(Canard à la Montmorency)作り方はこちらより

~ 第2章 ~
ワインの話
長谷川 純一(はせがわ じゅんいち)さん
(俺のフレンチ・グランメゾン 支配人兼シェフソムリエ)

心躍る食材「鴨」

 IMG_0664.jpgコラムの読者の皆様、メートル・ドテルとソムリエの「二刀流」に挑戦中の長谷川純一です。暑い日差しが照り付ける日が続いておりますが皆さまお元気でしょうか?今年の夏は特に暑く感じますし、地球温暖化の影響を実際に肌で感じるようになりました。しかし、その中で日々生き抜いていく努力は料理の世界でもワインの世界でも一緒だと感じています。そんな努力の一端を今回のコラムを通してお伝え出来たら幸いです。
 さて今回の主役の食材は「鴨」。メートル・ドテル(給仕長)としてもソムリエとしても心が躍る食材です。給仕としてはデクパージュの華とも言える鴨。優雅な手捌き(てさばき)でお客さまの前で鴨をお取り分けしてく技術は最高峰の給仕人の技です。メートル・ド・カナルディエ(鴨師)という資格もありますが、大変難しい試験で、私も初チャレンジは不合格で悔しい想いをした記憶があります。一方でソムリエとしては鴨が持つ香り、食感、鉄分を含む旨味のマリアージュは様々なアプローチが可能で、こちらも経験を活かしての腕の見せ所ですね!
 それにしても「鴨のモンモランシー風」。なんて可愛らしい響きの料理なのでしょう!使用する食材もサクランボということでチャーミングな惹き込まれる第一印象です。こういったネーミングや響きはお客さまにとっても大切で、サーヴィス人としては自分の声で更にメニューに魂を込めてお客様に提供致します。

マリアージュの選択肢が多い時に考えていること

 
cherries-3433775_1280.jpgそれでは本題のマリアージュ。お料理のコラムでもご紹介がありましたが、鴨とフルーツはとても相性が良いです。ワインはまさにブドウというフルーツからできていますので合わないわけがありませんね。私の出番は無いカモ(笑)
なんて思いつつ、、、今回はシェフにサクランボを赤ワインとスパイスでマリネして頂いていますので酸味とスパイスと鉄分のバランスが取れたワインが合いそうです。経験ある方でしたら、ブルゴーニュの北や中腹あたりの赤ワインをオススメするソムリエの方は多いと思います。
 でも!クリュ・デュ・ボジョレーも良さそうですね!
 あっ!鴨の鉄分に合わせてボルドーの右岸も合いそうですね!
 そうだ!ローヌのスパイシーな感じも良さそう♪
 いやいや!アルザスのテロワールを活かした混植の、、、
などなど、フランスだけでもいくらでも出てきそうです。きっとどの組み合わせでもマリアージュは成立すると思いますが、これだけマリアージュがイメージし易く裏切らない料理を目の前に大切なのは、きっと縁があって出会った目の前のお客さまに『何を伝えたいか?』だと思います。例えば、

『楽しさを伝えたい!』
 ワインの中でサクランボの香りが分かり易くお客さまもイメージし易い、カリフォルニアの聖地ローダイの「ジンファンデル」はいかがでしょうか?フランス料理だからフランスワインでなくてはいけないということはありません。親しみ易い味わいと、良い意味で「甘味」を感じるクラシックなジンファンデルはアメリカンチェリーのようなイメージでモンモランシーの赤ワインでマリネしたサクランボとリンクし、新世界と旧世界を繋ぐペアリングになります。またローダイは樹齢が高いブドウの樹が多くSDGsを求められるこの時代に大変重宝されています。若い樹は沢山の水や資源を必要としますが、古木は少ない水で良い実を稔らせてくれます。お皿の上でもお客さまとの思い出にも実りのあるペアリングになりそうですね!

『日本文化を伝えたい!』
 日本のワインも物凄いスピードで進化しています。ブラインドでテイスティングするともうビックリしてしまうような日本ワインが続々と登場しています。例えばですが日本が誇るサクランボの産地「山形」のワインもまた素晴らしいワインが造られています。ワイン特区(※)の制度が充実し、多くのワイナリーが毎年誕生し今では実に400を超えるワイナリーが日本にあります。モンモランシーのサクランボに日本の誇るブドウ品種「マスカット・ベーリーA」のペアリングはいかがでしょうか?日本人として自国のワインの提案をすることも「フランコ・ジャポネ」両国の食文化を尊重し合う素敵なマリアージュです。
※ワイン特区とは...構造改革特区制度における酒税法の特例措置によって、果実酒製造業に参入しやすくなる区域のこと。

『シェフの良さを伝えたい!』
IMG_5871.JPG シェフとサーヴィスは時に夫婦関係に例えられます。シェフとサーヴィスのマリアージュ(結婚)が成功していなければ、お客様にマリアージュを提案しても知識以上の納得や感動を与えることは難しいと思います。そこで、シェフの個性とワインの個性を合わせていく。これもまた私にとっては大切なマリアージュの一つ。私が在籍する俺のフレンチ・グランメゾンにも鴨の血が流れているのではないかと思う程に鴨を愛してやまないシェフがいます。シェフとの付き合いは10年を超えますが、私もシェフの鴨料理を提供するに相応しいサービスパーソンになりたくてメートル・ド・カナルディエの資格にチャレンジしました。今回のテーマの食材の鴨は胸肉を使用していますが、カットの仕方で大きく味わいの感じ方も変わってきます。オーダー頂いたワインに合わせてシェフには鴨のカットを変えて頂くこともしばしば。
 フルボディの力強いマリアージュは厚切りに、繊細でエレガントなマリアージュは薄切りに、樽好きの方には皮目はキャラメリゼなどなど、そのお客さまとシェフを繋ぐワインのマリアージュ。私がレストランで最も大切にしている一期一会の"活きたマリアージュ"です。

 さあ暑くなってきた季節にマリアージュの話も熱くなってしまいましたが、、、本当に暑い夏、お客さまもこの時期は少し食欲がダウンしてしまう方が多いですね。そんな時にちょっとした気遣いの調理とサーヴィスのスパイスがお客様の心も身体を癒すのではないでしょうか?我々にとって目の前の料理とお客さまには無限の可能性のマリアージュがあります。

「モンモランシー♪」

思わず言いたくなる、知りたくなる、好きになる、そんなステップで残暑も乗り越えて素敵な食欲の秋を迎えましょう!食の力を源にお身体大切にして下さいね。この度もご一読頂きありがとうございます。

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カナルディエ講習会で講師をする長谷川さん(2019.2)

寄稿者:メートル・ド・セルヴィスの会 長谷川 純一(はせがわ じゅんいち)
    俺のフレンチ・グランメゾン 支配人兼シェフソムリエ
    メートル・ド・セルヴィスの会 幹事
    第 7 回 JALUX WINE AWARD 準優勝
    第6回全日本最優秀ソムリエコンクール セミファイナリスト
    第16回メートル・ド・セルヴィス杯 全日本大会 優勝
    第6回 CGB世界サーヴィスコンクール パリ大会 準優勝
     チーズプロフェッショナル、ワインプラスカレッジ講師 他

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