レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
イル=ド=フランス地方2回目の今回は、フランス人が大好きなチョコレートを使った、パリらしい華やかなお菓子「 Gâteau Opéra /ガトー・オペラ」をご紹介します。
私もこの回が来ることを首を長くして待っていました。ずっしりと重く濃密で、お酒の風味と濃厚なチョコレート、クリームが絶妙にマッチ。何層にも重ねる作業は手間がかかりますが、食べた瞬間、至福の時が・・・。ぜひ挑戦してみてください。エピソードは前回に続きシェフのフランス研修時代のお話。初めてレストランに食べに行き、目にした光景に衝撃受けるシェフの姿が目に浮かぶようです。確かに驚きますよね。
~ 第1章 ~
レシピの話
<フランス料理用語注釈>
※1・・・ビスキュイ ジョコンド(biscuit Joconde) → タンプル・タン(同量のアーモンドと砂糖を混合わせ粉末にしたもの-アーモンドプードルと粉砂糖で代用も可)と小麦粉、卵、メレンゲ、バターを合わせて高温で短時間で焼き上げた生地
※2・・・クレーム オ ブール(crème au beurre) → バタークリーム
※3・・・ポマード(pommad)状 → 常温に戻し、撹拌し、クリーム状になったもの
※4・・・パータグラセ(pâte à glacer)→ テンパリング無しで使えるコーティング用のチョコレート
※5・・・イタリアンメレンゲ→ 立てたメレンゲに水と砂糖を加熱し作ったシロップを加えながらしっかり立てたメレンゲのこと。気泡が安定しているのでムースやバタークリームなどに向いている
作り方
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<ビスキュイ ジョコンド>
- ボールに全卵・粉糖を入れ、もったりするまでミキシング(撹拌)する。
- ふるいにかけたアーモンドプードル(アーモンドパウダー)と薄力粉を加え混ぜる。
- 別ボールに卵白と砂糖を入れ、ミキシングし、メレンゲを立てる。
- 2に3を3回に分けて加え、さっくり混ぜる。溶かしバターを加え混ぜる。
- テフロンパン(テフロン加工の天板)2枚に4を流し、スチコン(ホットモード・200℃・8分)で炊き上げる。
- 16cm×24cmの長方形4枚を切り出す。
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<クレーム オ ブール>
- 鍋に砂糖と水を入れ、火にかけ118℃まで煮詰める。(とろみが付いたシロップ状態)
- ボールで卵白を泡立て、1のシロップを少しずつ加えながら撹拌し、メレンゲを立てる。
- 別ボールで柔らかい状態のバターと2のイタリアンメレンゲ※4を合わせる。
- 湯でといたインスタントコーヒーを加えよく混ぜる。
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<シロップ>
- 材料を全て合わせて冷やす。
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<ガナッシュ>
- 刻んだチョコレートに温めた生クリームを加えしっかり溶かし混ぜる。
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<組み立て>
- 底辺のビスキュイ ジョコンド(生地)にパータグラッセを塗り、乾かす。
- 1をチョコの面を下にして台上に置く。
- 生地にシロップ ⇒ ガナッシュ ⇒ 生地 ⇒ シロップ ⇒ クレーム ⇒ 生地 ⇒ シロップ ⇒ ガナッシュ ⇒ 生地 ⇒ シロップ ⇒ クレームの順に重ねていく。
- パータグラッセを上面に塗り、冷蔵庫でしっかり冷やす。
- 四方側面を切り落とし、文字を入れ、金箔をあしらう。
レシピの説明&エピソード
今回は、フランス人が大好きなチョコレートを使ったパリらしい華やかなお菓子「 Gâteau Opéra / ガトー・オペラ 」です。数ある伝統的なフランス菓子の中でもこの「ガトー・オペラ」は上品な高級菓子として世界中のお菓子好きに愛されています。日本でもパリ観光の目玉スポットとしてのネイミングも相まってスタンダードで人気のお菓子のひとつですよね。恥ずかしながらパティシエ経験のない私は今回が初めての「オペラ」作りでしたので、仕上がり具合は大目に見てください。
「ガトー・オペラ」名前の由来
このお菓子の名前の由来となった(諸説あります)「オペラ座」はナポレオン三世の時代1875年にシャルル・ガルニエの設計によって完成した豪華な歌劇場です。観光で訪れた方も多いのではないでしょうか。私も何度か劇場内に入り夢のように幻想的なマルク・シャガールの天井画を時間の許す限りボーっと眺め続けて軽く首を痛めたという思い出があります。劇場特有の照明の暗さとの相乗効果でシャガールのカラフルな天井画がとても素敵に見えるんですよね。
さてお菓子の「オペラ」ですが発祥にはいくつか説があるようです。まず皆さんご存じの有名な菓子店1802年創業「ダロワイヨ」の社長シリアック・カヴィヨン氏が1954年に考案し、彼の妻アンドレ・カヴィヨンがオペラ座のバレリーナに対して賛辞の念を表すためにそのガトー(菓子)に「オペラ」という名前を付けたという説。
もうひとつは、意外と知られていませんが、1920年「クリッシー」という菓子店で考案されたという説。こちらの菓子店は今も現存していて、同じ構成(上面には「Clichy」の文字)のお菓子を店名と同じ「クリッシー」という名で販売しています。他にもいくつか説があるようですが、最も有力な説は、「ダロワイヨ」発祥のようです。
ビスキュイ ジョコンドとモナリザの関係
この「オペラ」の構成要素はチョコレートガナッシュとコーヒー風味のバタークリーム、そしてアーモンド粉が入った風味豊かな別立て生地「ビスキュイ・ジョコンド」です。この「ジョコンド」という名称はイタリアのフィレンツェの名士「フランチェスコ・デル・ジョコンド」の夫人「リザ・デル・ジョコンド」からきているといわれています。パリのルーブル美術館に展示されている世界的な名画 レオナルド・ダ・ヴィンチ作「モナリザ」のモデルといわれている人物です。イタリアは古くからアーモンドの名産地だったのでアーモンド粉を贅沢に使った生地をそのように命名したのでしょう。ちなみにこの肖像画をフランスでは 「モナリザ」ではなく「La Joconde/ラ ・ジョコン ド」と呼びます。どうやら「モナリザ」は英語圏や日本での呼び名のようです。私は在仏時、地方の田舎での仕事がほとんどだったので、たまにパリに上がった時にはルーブル等の美術館に必ず足を運ぶようにしていました。なので何度も「モナリザ」を鑑賞(?)しましたが、いつ行ってもその前には山のような人だかりができていて世界中から訪れる観光客でごった返していました。
最後に忘れてはいけない大事な「ガトー・オペラ」の仕上げですが、上面にチョコレートで 「Opéra」と文字を入れ、金粉をあしらうのが定番です。金粉で「オペラ座」の豪華さを表現しているのでしょう。長方形か正方形が主な形で、高さは3cm前後、丸型は見たことがありません。見た目も味わいもパリらしい高級感漂う都会のお菓子です。
フランス研修時代の話 初めてのレストラン食べ歩き
さて、ここからは前回の続きです。食事をするレストランを相談した結果、我々3人が日本でお世話になった先輩が若かりし頃ヨーロッパ修業中に在籍していた「Chateau d'Artigny / シャトー・ダルティニ」へ行くことになりました。よくその先輩から「シャトー・ダルティニ」のお話は聞いていたし、フランスの星付きレストランを紹介する本で何度も写真を見て記憶していたしで、あとは折角フランスにいるのだから一度はお城で食事をしてみたいとの3人の希望が合致した選択でした。場所はパリから少し離れたロワール地方。古城めぐりなどでセレブな旅行者たちが拠点とするようなモンバソンの丘の上にたつ豪華なシャトーです。普通は高級車で乗り付けるような場所ですが、我々3人は森の中を抜けて、とぼとぼ歩いて訪れました。記念すべきフランスでのレストラン巡り、一軒目です。
ブルゴーニュ地方「ブルゴーニュ風 エスカルゴのオムレット」のページでも少し書きましたが、フランスでは堂々と犬もレストランで食事をします。「シャトー・ダルティニ」での我々の隣の老夫婦のテーブル下では大型犬がおとなしくい寝ていました。もう食べ終わったのでしょうか満足そうな寝顔をしています。優雅ではあるのだけれど日本では見かけたことがない初めての光景だっただけに結構衝撃的でした。たぶん相当緊張してたんしょうね。食べたお料理の記憶がまったくありません。食後、シェフの案内で大規模なキッチンと豪華な城内を見学したことだけは覚えています。何故かというとその時3人で撮った記念写真を今でも大切に持っているので・・・。
(シェフM.T)
次回はガトー・オペラに合うワインや飲み物についての『ワインの話』です。どうぞお楽しみに。