レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

イル=ド=フランス地方

ブッフ・ア・ラ・モード(1)『レシピの話』

Bœuf à la mode

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ア・ラ・モード(流行りの)という名の370年前から愛される牛肉煮込料理をご紹介します。シェフエピソードでさらに詳しく解説しています。またプリンアラモードの思い出や初めてパリに渡り研修を始める様子など、情景が目に浮かぶような、懐かしい気持ちになるお話も。ぜひ最後までお楽しみください。 

~ 第1章 ~
レシピの話


<材料>(4人前)
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  • 牛肉(イチボ又はシンタマ):2㎏
  • 豚背脂:250g
  • コニャック(又はブランデー):15ml
  • パセリ(アッシェ※1):少々
  • バター:50g
  • 白ワイン:300ml
  • マデラ酒:100ml
  • コニャック(orブランデー):100ml
  • 仔牛の足(or豚足)(プティ・デ※2):2本
  • タマネギ(グローブをピケ※3):1個
  • グローブ(丁子) :2本
  • ブーケガルニ:1本
  • ブイヨン  :800ml
  • ニンジン(ロンデル※4)  :500g
  • 小タマネギ :400g

<フランス料理用語注釈>

※1・・・アシェ(hacher)細かく刻む

※2・・・プティ・デ(petits dés)小さな賽の目

※3・・・ピケ(piquer)刺す、差し込む

※4・・・ロンデル(rondelle)輪切り

作り方

  • 豚背脂を紐状に切り、軽くアセゾネし、コニャック15mlとパセリのアッシェ(みじん切り)をふりかける。
  • 牛イチボ肉に1をラルドワール※5で差し込み、フィスレ※6する。
  • 深い容器に入れ、白ワイン、マデラ酒、コニャックを注ぎ入れ、5時間漬け込む。
  • 牛肉を取り出しアセゾネ※7する。ココットでバターを溶かし、牛肉全体を色よく焼いていく。
  • 余分な脂を取り除き、マリナードを注ぎ入れ、沸騰させてアルコール分をとばす。
  • タマネギ、ブーケガルニ、豚足、ブイヨンを加え、軽くアセゾネし、フタをしてスチコンで加熱する。(コンビモード・100%・2時間・風量4) ※途中、水分が足りなくなったらブイヨン又は水を足す。
  • ニンジンと小タマネギはそれぞれ分量外のバター・砂糖・水でグラッセ※8にする。
  • 6から牛肉を取り出し、キュイッソン(煮汁)を濃度がつくまで煮詰め、パッセ※9してソースとする。
  • 牛肉のフィセル(調理用の紐)を外し、器に盛る。ニンジン・小タマネギのグラッセを添え、ソースをかける。パセリをふる。

<フランス料理用語注釈>

※5・・・ラルドワール(lardoire)豚の背脂を刺し込むための刺し棒

※6・・・フィスレ(ficeler)料理用の紐(フィセル)で縛る(肉の形を整え、調理中の変形を防ぐため)

※7・・・アセゾネ(assaisonner)調味すること。塩、胡椒、その他香辛料などを用いて味を整えること。

※8・・・グラセ(glacer)グラッセする。照りをつける。

※9・・・パッセ(passer)漉し器でこす。

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レシピの説明&エピソード

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いよいよ最後の地方「Île de France(イル・ド・フランス)」です。今回から3回連続でご紹介します。「イル・ド・フランス」は首都パリを中心とした地域圏で、フランスの人口の約18%がそこに集中しています。世界的にリッチな地域として知られていて観光資源も多く、地域圏なのに何とGDP はオランダ(国)を大きく上回っているそうです。フランスの中心地だけに由来するお料理やお菓子も数多くありますのでチョイスもだいぶ悩みました・・・。

1651年のレシピ本に登場したレシピ

 では!お料理に参りましょう。まず1品目は「Bœuf à la mode(ブッフ・ア・ラモード)」です。 ア・ラモードとは「流行の」とか「現代風の」という意味です。でもパリで流行ったのは300年以上も前の話。日本の徳川幕府三代将軍家光が死去した 1651年、フランスでは初の料理書(レシピ本)といわれているラ・ヴァレンヌ著『Le Cuisinier françois』が出版されました。17世紀のベストセラーで、そこに「Bœuf à la mode」のルセットが掲載されているそうです。なので1651年前後には流行っていたのかなとも推測されます。
もうひとつ「調理法」的にア・ラモードと料理名がつけられてたという説もあります。17世紀ごろから「ragoût / ラグゥ(煮込み)」という「調理法」用語がよく使われ始めたので、この「調理法」こそがア・ラモードだと・・・。
 先程の本の著者ラ・ヴァレンヌはルイ14世時代の宮廷料理人で、シャロン・シュール・ソーヌの総督であるマルキ・デュクセル伯爵に長年仕えていました。彼はそれまで秘伝とされてきた宮廷料理を初めて本にまとめて出版した料理人で、シャンピニヨン(キノコ、マッシュルーム)のデュクセル(duxelle de champignons)※10や ベシャメルソース(sauce béchamel)※11も彼の発明だといわれています。晩年は運に恵まれず、食うや食わずの生活が続き60歳で亡くなったといわれています。
この「Bœuf à la mode(ブッフ・ア・ラ・モード)」という料理名ですが、「Bœuf mode(ブッフ・モード)」や「Bœuf carottes(ブッフ・キャロット)」とも略されているようで、もしかしたら後者の方が今はポピュラーかもしれません。牛の塊肉に風味付けした豚脂を刺し込んで、酒類でマリネしてから人参と玉葱と共に煮込んだ料理で、ワインは白ワインを使いますが、赤ワインと記されているレシピも存在します。ちなみに私の手元にあるEscoffier著「le guide culinaire」は赤ワイン、同じくEscoffier著「ma cuisine」は白ワイン、Paul Bocuse著「LA CUISINE DU MARCHÉ」は白ワイン、「Larousse gastronomique」は赤ワイン、「Gastronomie pratique」は白ワインでした。酒類は他に必須のコニャックと冷やして食べるときに加えたりするマデラ酒を使ってみました。

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ゼラチン質に富んだルセットなのでゼリー寄せ的な冷製料理としても美味なのです。仔牛の足は今回手に入らなかっので、ゼラチン質抽出ならと豚足で代用しました。とてもシンプルで美味しい煮み料理なので皆さん是非トライしてみてください。

ア・ラ・モードといえば

ア・ラモードといえば、皆さんも同じだと思いますが、やはり頭に浮かぶのは「プリン・ア・ラモード」ですよね。幼稚園に通っていた私にとって当時、日本で最高峰のデザートはこの「プリン・ア・ラモード」でした。シュークリームもエクレアも苺のショートケーキも大好きだけど「プリン・ア・ラモード」の前では霞んでしまうのです。当時、横浜駅に隣接する高島屋の食堂ではお子様ランチとこの「プリン・ア・ラモード」がセットになっていて、幼い少年にとっては夢のフルコースでした。キャラメルが甘く香るカスタードプリンの周りには甘ーいホイップクリームとみかんやメロン等の果物が。トップには真っ赤なさくらんぼというゴージャスな雰囲気。ガラスの器に盛られている姿も特別感を漂わせていました。ただ滅多に食べられるものではなく、年に数回、祖父母や親せきが横浜に遊びに来た時だけのご馳走でした。ちなみにこの「プリン・ア・ラモード」、横浜ニューグランドホテルが発祥だそうです。浜っ子にとっては誇らしいことです。
 小学校に上がってからは、大学のために上京した、いとこのお兄ちゃんやお姉ちゃんに連れられて数回ですが銀座の資生堂パーラーで大人の「プリン・ア・ラモード」を食べさせて貰ってました。もちろん正装の半ズボン・ブレザー・蝶ネクタイの三点セットでばっちり決めて・・・。それも当時できたばかりで珍しかった銀座四丁目のマクドナルドでハンバーガーとポテト、バニラシェイクをしっかり食べた後にです。大学生みたいには食べられないのですが、お腹が苦しいながらも「プリン・ア・ラモード」の前では満腹なんて忘れさせてくれる至福の時間でした。

27歳料理人パリに降り立つ

 すいません。長く脱線してしまいました。フランスに話を戻します。ここから「Île de France(イル・ド・フランス)」でのお話を少し。言わずと知れたパリを中心とした地域です。フランスを訪れた方はだいたいパリに降り立ちますよね。私も生まれて初めての飛行機で、生まれて初めての海外として降り立ったのは、その「花の都パリ」でした。27歳の秋のことです。夜遅くに到着したので東京よりも空気が冷たくて、即ジャンバーでした。右も左もわからない私にとって小脇に抱えた「地球の歩き方・フランス」だけが唯一の心のよりどころです。というか命綱でした。とりあえず空港でエスプレッソを飲みながら日本から持ってきたセブンスターに火をつけて、心を落ち着かせます。「やっべー!本当に来ちゃったよ。」これが嘘偽りないその時の私の気持ちです。覚悟を決めて「地球の歩き方」を見ながら何とか移動を開始しました。
とりあえず最初のレストランで働き始めるまでに2日間あったので、1年前に渡仏した同期2人のところに泊めさせてもらえるように事前に手紙を送っておきました。当時は携帯電話もない時代でしたので、手紙が結構大切なコミュニケーションツールだったのです。彼らが住み込みで働いていたレストランはパリ郊外の乗馬ができるような森林公園と閑静な住宅街があるハイソな場所にありました。フランスで修業した一部の日本人にはとても有名なレストランで、ミシュランの星こそありませんが。親切なオーナーが日本の料理人のフランスでの第一歩をサポートしてくれるのです。ここで働きながら語学学校へ通いフランス語をある程度マスターしてからフランス各地のレストランへ旅立っていく。時には星付きの有名レストランでの修業がうまくいかずに悩み、次のチャンスをここで働きながら待つみたいな日本人にもオーナーは親切に対応してくれたそうです。ありがたいことです。
パリに着いた翌日、レストランの定休日だったので同期3人でレストランへ食事に行こうという話になりました。相談した結果・・・。この続きは次回のページで書きます。お楽しみに。
(シェフM.T)paris-g486a85084_1920.jpg

<フランス料理用語注釈>

※10・・・デュクセル(duxelle de champignons)シャンピニョンのみじん切りにタマネギとエシャロットのみじん切りを加えてバターで炒め、水分を良く蒸発させたもので、ファルス、ソース、その他料理の味を高めるのに用いられる。

※11・・・ベシャメルソース(sauce bechamel)白色ソースの代表的なもので、白色ルーと牛乳で作る。ルイ14世の大膳食長官のBechameilが考案したとの説もある。

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