レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
今月は人口約35万人、面積8,682㎢の地中海に浮かぶ大きな島、コルシカ島を訪れます。2018年までは二つの県に分かれていましたが、現在は県は無くなり、コルシカ島で一つの地域圏をなしています。コート・ダジュールから200㎞たらず。ターコイズブルーの海と多く残る自然、断崖絶壁の上に広がる町並みなどの美しい景観、さらにヤギや羊のチーズ、ワイン、栗、ソーセージ、ハチミツなどの特産品も加わり、保養地としても観光地としても人気を集めています。コルシカ島のすぐ南にも大きな島があるのですが、こちらはイタリア領のサルデーニャ島。コルシカ島も地理的にはイタリアに近く、ジェノヴァやトスカーナ公国領だったこともあり、イタリアの影響が感じられます。
さて、今月ご紹介する「アジミヌ」は「コルシカ島版ブイヤベース」。見た目では分からないのですが、口に入れた瞬間、オレンジの香りが口中に広がり、魚介やスープに驚く程調和していて、とても爽やかな美味しさです。
後半のシェフエピソードでは。3年間のフランスでの修行を終え、モナコの最高級レストランで食事をして、スペインでバカンスを過ごす計画を立てていたシェフの顛末が、スープ・ド・ポワソンの思い出と共に語られています。どうぞ最後までお楽しみください。
▲フランス革命期の軍人から皇帝にまで上り詰めたナポレオン・ボナパルトが生まれたことからもこの島は有名に
~ 第1章 ~
アジミヌのレシピの話
<材料>(4人前)
- カサゴ:1尾
- ほうぼう:1尾
- めばる:1尾
- 鯛のアラ:1尾分
- ムール貝:500g
- あさり:100g
- 有頭エビ:4尾
- オリーブ油:適量
- (香味野菜)
- ニンニク:1頭
- タマネギ:1個
- エシャロット:1個
- ポロネギ:1/2本
- ニンジン:1本
- フヌイユ:1/2株
- トマト:4個
- トマトコンサントレ(トマトペースト):20g
- オレンジの皮:1個分
- 塩・コショウ
- (香辛料水)
- 水:3L
- タイム:適量
- フヌイユの葉:適量
- ローリエ:適量
- パセリ:適量
- オレガノ:適量
- ナツメグパウダー:適量
- カイエンヌパウダー:適量
- パプリカパウダー:適量
- サフラン(魚を煮る時に入れる):適量
- (アルコール)
- ロゼワイン(または白ワイン): 300ml
- パスティス:200ml
- コニャック(またはブランデー): 50ml
- (ルイユ)
- じゃがいも:200g
- ニンニク:15g
- 卵黄:2個分
- オリーブ油:200ml
- 塩・コショウ
- (ガーリックトースト)
- バゲットスライス:8枚
- ニンニク:1片
- オリーブ油:適量
- 塩(フルール・ド・セル):適量
- (ガルニチュール/付け合わせ)
- ジャガイモ:8個分
作り方
-
(下準備)
- 魚類は水洗いし、筒切りにする。頭と鯛のアラは、ザク切りにして、水にさらす。貝類は砂出しをし、エビは頭を外す。
- 香味野菜はエマンセ(薄切り)にする。香辛料水は鍋に水・香辛料等を入れて火にかけ、5分ほど煮て香りを出し、漉す。
- ルイユはスチームにかけて裏漉ししたジャガイモとニンニク、卵黄をフードカッター(ロボクープ)にかけ、オリーブ油を加えて塩・コショウで味を整える。
- ガーリックトーストは、バゲットのスライスにニンニクをこすりつけ、オリーブ油をかけてトーストし、塩をふる。
- 鍋でオリーブ油を熱し、アラとエビ頭を炒める。香味野菜を加え、よく炒める。香辛料水を加え、30分間煮る。
- 5を少し休ませてから漉し器で漉し、味をみながら煮詰める。塩・コショウで味を整える。
- 別鍋でオリーブ油を熱し、魚介類を炒める。アルコール類を加えて熱し、6とジャガイモを加えて火を通す。
- 具とスープを分けてサービスする。ルイユとガーリックトーストを添える。
(仕上げ)
アジミヌの説明&エピソード
今回のフランス地方料理の地「Corse/コルス(コルシカ島)」は、地中海の西側、どちらかというとイタリア半島に近い位置にあるフランス領の島です。我々がよく聞く「コルシカ」 (Corsica) はイタリア語での呼称で、フランス語では「コルス」(Corse) といいます。島の大きさは日本の広島県とほぼ同じです。はるか昔から数々の領地変遷を経て、1769年頃から完全にフランス領となり、いろいろな事件もありましたが、今に至っています。
▲ニース、マルセイユから船か飛行機で行くことができる
他の地中海沿岸と同じように一年中温暖な気候の観光地で、少ない平地は少雨なのですが2,000メートル級の山々があるため、逆に山岳地域は多雨で、冬には雪が積もりスキー目的の観光客が来るほどです。
この島を世界的に有名にしているものの一つが『ツール・ド・コルス』と呼ばれるWRC(世界ラリー選手権)です。1956年から毎年開催され、カーブが多く荒れた路面のテクニカルなコースが特長です。当時、カーレースに興味深々だった私の遠い少年時代、「ランチア・ストラトス」が土煙を上げて疾走する姿をハラハラどきどきしながらテレビにかじりついて見ていた記憶があります。
そして、もう一つというかもう一人、この島を世界的に有名にしている人物が、フランス革命期の軍人からフランス第一帝政の皇帝にまで昇りつめた、あの「Napoléon Bonaparte(ナポレオン・ボナパルト)」です。彼はここコルシカ島の生まれなのです。彼については今回はスルーして、次回少し書きます。
コルシカ島の特産物は、半放牧で育った品種の豚を使ったハムやソーセージなどの豚肉加工品やヤギの乳から作られるシェーブルチーズです。フレッシュなものから熟成の進んだものまで、様々なチーズがありますが、最も有名なのがフレッシュチーズの「ブロッチュ」。こちらを使ったお料理は次回ご紹介します。あと栗の粉で作るガトー(ケーキ)や焼き菓子、蜂蜜、オリーブ油、オレンジやレモン、ジビエ(猟鳥獣)などなど豊富にあります。猪の煮込みも名物です。猪に関しては、なかなかフランス料理の料理人といえども扱う機会は稀なのですが、私はフランス修業時代にたった一度だけ悪戦苦闘しながら一頭をさばいた経験があります。なかなかないチャンスだからとその店のスゴン(副料理長)の指導のもとやらせてもらいました。貴重な経験でした。そのときのお話もどこかで書けたら書きます。
他にももちろん豊かな漁場に囲まれた島ですので魚介類も豊富です。そこで今回は、コルシカ島の「Bouillabaisse(ブイヤベース)」こと「Aziminu(アジミヌ)」をご紹介します。「ブイヤベース」といえば南仏プロヴァンス地方、地中海沿岸の代表的な料理で、フランス最大の港湾都市「Marseille(マルセイユ)」 の名物です。「ブイヤベース憲章(ルール?)」があるほどですから相当ですね。コルシカ島の「アジミヌ」の特長はパスティスとスパイスが結構効いているところと具材のバリエーションが豊富なこと、柑橘の香りも入ります。もしかしたらブイヤベースよりも自由度が高いかもです。この表現が正しいかはわかりませんが・・・。まあ、どちらも非常に美味しいフランス料理であることには間違いないです。
ブイヤベースというか「Soupe de poisson(スープ・ド・ポワソン)」の思い出なのですが、私が3年間のフランス修業を終えた後、最後の1か月をモナコの三ツ星「Le Louis XV - Hôtel de Paris(ルイ・キャーンズ)」で食事をしてからスペインへ渡り、ゆっくりバカンス気分で過ごそうと前々から計画していました。ところがモナコに入る前に一泊した「Nice(ニース)」の雰囲気に魅せられてしまい、気が付いたら一週間の長期滞在となってしまいました・・・。
その間、どうせならと昼も夜もお店をかえて「スープ・ド・ポワソン」の食べまくりです。香りのよいスープにガーリックトーストとアイオリを入れて、一心不乱に食べる。飲む。食べる。それぞれのお店で味に違いはあれど、どこで食べても本当に美味しい。まったく飽きない。やはり魚食いの日本人だからなのでしょう。毎食、お腹いっぱいで感動の毎日でした。
▲ジャガイモ、ニンニク、卵黄、オリーブ油でつくったルイユソース
他にもマルシェ(市場)をのぞいたり、散歩をしたり、ブルーの海を眺めながら海岸で昼寝したり、知り合った女の子とこれまた「スープ・ド・ポワソン」を食べたりしながら過ごした一週間。そしてとうとう仕舞いには「ルイ・キャーンズ」のための食事代を使い果たして、三ツ星には行けずじまい・・・。それでもなかなか経験することのできない別の意味で「贅沢なニースの一週間」は3年間のフランスの仕事で知らず知らずに疲労を蓄積していた私の心を穏やかに、そして豊かにしてくれ、充実した気分のままスペインに向かうことができました。
ブイヤベースの思い出もひとつ。日本に帰国して小さなレストランでシェフをしていたころ、オーナーの強い要望で「土鍋ブイヤベース」を出していました。日本の土鍋にすべて盛ってスープがぐつぐつ煮えた状態で客席に運びます。魚介もふんだんにジャガイモなどの野菜もたっぷり。食べ方もフランス式(具とスープは別々に)ではなく、日本の鍋料理のように召し上がっていただいていました。ある時、オーナーから5名様で「土鍋ブイヤベース」を用意しておくようにと予約が入りました。当日、客席にご挨拶に伺うと、「ホテル○○から勉強に参りました。」と。「え!」内心「聞いてないよー!オーナー!」。
お土産に「ガトー・ダンディ」(これでどこのホテルかわかる方もいるのでは。)をいただき、緊張しながらの仕事でした。後日、そのホテルの総料理長(私の国内修業一件目の先輩、当時は口も聞けないほどの大先輩。)からお礼のお手紙までいただき、またまた緊張。何年経ってもいまだに私は、同じ調理場で働かさせていただいたシェフや先輩にお会いすると緊張してしまうのです。
(シェフM.T)