レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
今月も北フランスのオー=ド=フランス地方(Hauts-de-France)を訪れます。今回のレシピの舞台、アミアンは世界遺産のノートルダム大聖堂でも有名です。(前回ご紹介したフィセル・ピカルドもアミアンの料理人考案)キリスト教の聖地の一つ、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへ続くフランスの巡礼路に含まれていることもあり、一年を通して観光客と共に、多くの巡礼者が訪れます。ローマ・カトリック教会はこの大巡礼を行うと罪が許され天国に行けると人々に薦めたことから、昔から多くの人々が聖地を目指しました。アミアンへはパリから電車で1時間10分程。アミアンへ行かれたら大聖堂はもちろんですが、アミアンのマカロンもぜひお試しください。マカロンについては後半で詳しく説明しています。ではレシピを見てまいりましょう。
▲世界遺産 アミアンのノートルダム大聖堂
▲アミアンのサン・ルー地区は運河のある美しい町並みで、フランスのヴェニスと呼ぶ人も
~ 第1章 ~
アミアン・ダミアンのレシピの話
材料
<材料>15個分
- アーモンドプードル: 125g
- 粉糖: 125g
- ハチミツ: 15g
- リンゴジャム: 15g
- アーモンドオイル: 少々
- バニラオイル: 少々
- 塩: 少々
- 卵白: 20g
作り方
- ボールにアーモンドプードルと粉糖を入れ、よく混ぜる。
- ハチミツ、リンゴジャム、アーモンドオイル、バイラオイル、塩を加えてよく混ぜる。
- 卵白を加えて生地をまとめる。ラップをして一晩休ませる。
- ラップを使って、生地を直径3㎝×30㎝の棒状(ロール状)に成形する。
- ラップを外して厚さ2㎝にカットし、オーブンシートに並べる。
- スチコン(オーブン・180℃・15~20分)で焼き上げる。
マカロン・ダミアンの説明&シェフエピソード
ピカルディの主要都市アミアンといえば、フランス最大のノートルダム寺院、1981年に登録された世界遺産「アミアン大聖堂」があることで有名です。ゴシック様式聖堂としては最高峰と称されているそうです。そして、このアミアンの銘菓が今回の「Macarons d'Amiens」(アミアン風マカロン)です。
このマカロン・ダミアンの誕生には諸説ありますが、16世紀頃から「Amiens」(アミアン)の銘菓として知られていて、近年1992年の国際製菓フェアーではフランス地域料理グランプリを獲得しているほどです。外はカチカチ、中はネチッとした食感のシンプルなお菓子です。製法の特徴としては、蜂蜜を加えた生地を一晩休ませてから棒状(ロール状)に成形し、それを金太郎飴のようにカットしてから焼き上げるというところです。今回はシリコン型を使ってみました。
この「マカロン」というお菓子の歴史は古く13世紀まで遡るといわれています。まず13世紀にアジア中東のアーモンド粉のお菓子がイタリアに伝えられ、16世紀にフランス王アンリ2世のもとにイタリアから嫁いだカトリーヌ・ド・メディシスによってフランスに伝わり、それから次第にフランス各地に広がっていきました。いろいろな製法がありますが、基本の材料はアーモンド粉・卵白・砂糖というところはどこも同じです。一説には、もっと古く791年には既にフランスの今のサントル・ヴァル・ド・ロワール地方の「Cormery / コルムリー」の修道院でマカロンを作っていたと主張する研究者もいるようです。
ここで折角なのでフランスの各地方で愛されている幾つかの「マカロン」をご紹介します。最初は「Macarons Parisiens / マカロン・パリジャン」です。皆さんが「マカロン」と聞いて、まずイメージするのがこのマカロンだと思います。カラフルに色付けされた生地でガナッシュ(生チョコレート)やコンフィチュール(ジャム)やクリームなどを挟んだ女性好みのおしゃれな姿で、ショーウインドーに綺麗に並べられていたり、可愛らしい箱に詰め合わせてあったりと、その名の通りパリっぽい雰囲気のマカロンです。製法としては他のマカロンと極端に違っていて、卵白と砂糖をメレンゲに泡立ててからアーモンドと合わせるので、ふんわりと表面はつるつるに仕上がるのが特徴です。また生地と生地の間にクリーム等を挟むところも他のマカロンと違うところです。
少し余談ですが、パティシエとして世界的に有名な「ピエール・エルメ氏」=「マカロン」と頭にインプットされている方も多いのではないでしょうか。そうです。私もその一人です。というのも以前書きました「フランスへの新婚旅行」の帰り、搭乗前にオルリー空港内でお茶をしていた時、カフェの隣の席に偶然ピエール・エルメさんらしき人が座りました。おひとりでしたので恐る恐るご挨拶すると、やはりピエール・エルメさんご本人でした。日本に出店してる彼のお店のシェフがたまたま私の知人でしたので、彼の名前を出しつつ、エスプレッソ1杯の短い時間だけお話をさせていただという出来事があったので・・・。それ以来、完全に「ピエール・エルメ氏」=「マカロン」となりました。
次に「Macarons de Nancy / マカロン・ド・ナンシー」です。こちらはグラン・テスト地方の都市ナンシーの銘菓です。皆さんご存じのエミール・ガレやアントナン・ドームらのガラス工芸や曲線が何とも優雅な家具、建物の内装の装飾等新たな芸術「アール・ヌーヴォー」が生まれたことで有名な街です。ここのある修道院で修道院長のために胃にもたれないお菓子として修道女たちが作っていたのが、この「マカロン・ド・ナンシー」です。18世紀に迫害を受けたその修道女の二人、スザンヌとエリザベートが、自分たちをかくまって助けてくれたお家の家族に感謝を込めて作ったマカロンがいつの間にか町の評判となり、銘菓となっていったそうです。地元の人々は彼女たちを「スール・マカロン(マカロンの修道女)」と呼び伝説となりました。製法としては、砂糖を煮詰めてから他の材料と合わせるのが特徴で、焼き上がりは、平らで表面にひび割れが入ります。とても素朴ですが本当に美味しいシンプルなお菓子です。
次に「Macarons de St-Emilion / マカロン・ド・サンテミリオン」。名前の通りボルドー近郊のワインで有名な街の銘菓です。サンテミリオンはブドウ畑を含む村の管轄地区が世界遺産となっていることでも有名な街で、このマカロンは1620年にウルスラ会の修道女が作ったものが始まりとされています。その特徴は、土地柄もあってソーテルヌなどの甘口ワインを生地に加えて香り良く焼き上げられています。形は平らでやや小ぶり、ナンシーのマカロン同様こちらも表面にひび割れが入っていて、食感は少しネッチリとしています。これらの他にもフランス西部ヌーヴェル・アキテーヌ地方の「Macarons de Montmorillion / マカロン・モンモリオン」や同じくヌーヴェル・アキテーヌ地方のこちらはスペイン国境近くのリゾート地の「Macarons de St-jean de Luz / マカロン・サンジャン・ド・リュズ」などが有名です。
ちなみに我が日本にも「マコロン」というお菓子があります。可愛らしいボタンの形です。当時はアーモンドが入手困難だったらしく、こちらは落花生が原材料です。幕末に誕生して以来、明治時代の交通の発展と共に日本全国に知られるようになりました。和洋菓子というところでしょうか。休日のお散歩時に「おかしのまちおか」で時々見かけては、麩菓子と共に購入しています。お茶うけには最高です。もちろんコーヒーにもバッチリ合います。(シェフM.T.)
▲ナンシーの見所の一つのスタニスラス広場
@Maison Des Sœurs Macarons
▲4世紀にわたりレシピを守り続けているナンシーのマカロン店「メゾン・デ・スール・マカロン」
@Maison Des Sœurs Macarons
▲シート上に絞り出し、そのまま焼き上げられます
@Macarons de Saint Emilion
▲サンテミリオンのマカロン。こちらも歴史は古く1620年に修道会によって作り出したと言われていて、今もこのお店がそのレシピを守っている。
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