レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
3月も残すところあと僅かとなりました。桜も満開となり、暖かく気持ちの良い日が続きます。卒業式や入学式、入社式と忙しくされている方も多いのではないでしょうか。
さて、フランスではミモザの花を見ると春だなぁと感じます。他に春を感じさせるものと言えば『パック( Pâques)』(復活祭)です。卵やうさぎ、鐘などを型取ったチョコレートが店頭に並び、色とりどりの卵のモチーフが街を飾ります。卵型のチョコレートや、卵型の容器の中にお菓子を詰めたものを隠して、公園で宝探しゲームをしたことも。
長く暗くて寒い冬が終わり、心浮き立つ陽気に包まれる春。今月は子どもから大人まで大好きな復活祭を祝うレシピのご紹介です。復活祭については後半のシェフエピソードでも詳しく説明しています。パテとシェフのエピソードと共にお楽しみください。
材料
- ファルス
- 豚ひき肉: 300g
- 仔牛ひき肉: 300g
- にんにく(アシェ※1): 30g
- エシャロット(アシェ): 80g
- バター: 40g
- タイム (アシェ): 適量
- パセリ(アシェ): 適量
- ナツメグ: 少々
- コニャック: 50ml
- ゆで卵: 4個
- ソース・マデール
- エシャロット(アシェ): 10g
- バター: 10g
- マディラ酒: 150ml
- 赤ワイン: 50ml
- フォン・ド・ヴォー: 300ml
- バター: 適量
<フランス料理用語注釈>
※1・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
作り方
-
パート・フイユテ
- 粉類と塩、バターをすり合わせ、水を加えてデトランプを作り、休ませる。
- バターを三つ折り5回で折り込む。総量の1/2を使用。25cm×25cm・厚さ3mmに伸ばす。
- 卵をスチームコンベクションオーブン:スチコン(スチームモード・蒸気量100%・100℃・13分)で加熱し、氷水にとり、殻をむく。
- バターでにんにくとエシャロットをスュエし、冷ます。
- ボールに挽肉類・3・卵・タイム・パセリ・ナツメグを加え練る。コニャックを加えて練り、アセゾネする(味を整える)。
- パート・フイユテを広げ、ファルスとゆで卵を包み、蒸気穴を3か所程空け、ドレ※2して、あまり生地で飾る。
- スチコン(ホットモード・190℃・45分)で加熱する。
ソース・マデール - 鍋にバターを溶かし、エシャロットをスュエし、マディラ酒・赤ワインを加え、煮詰める。
- 1/3まで煮詰めたら、フォン・ド・ボーを加え、軽くとろみが付くまで煮詰める。
- パッセ※3はせずにバターでモンテ※4する。
ファルス
※2・・・ドレ(dorer)ドリュール(溶き卵)を塗る/パイなどにつやのある焼き色をつけるために塗る。ドリュールは全卵または卵黄を用い、少量の水や牛乳を加えることがある
※3・・・パセ(passer)漉し器などを使って漉すこと
※4・・・モンテ(monter)ソースの仕上げに、冷たいバターの塊を少しずつ加えて溶かし混ぜ、ソースにコクや濃度をつける
復活祭のパテ ベリー風の説明&シェフエピソード
フランスでは「復活祭」と共に春が訪れるといいます。2022年は4月17日が「Pâques(パック・復活祭・イースター)」です。春分の日のあと最初の満月から次の日曜日が「復活祭」となります。なので日にちは毎年変わるのだそうです。翌日の月曜日は「Lundi de Pâques」と呼ばれ、この日も祝日となり、連休です。
この「復活祭」は世界中のキリスト教徒にとって、とても大切な日とされていて、特にカトリックの国であるフランスでは大々的にクリスマスと同じようにお祝いされます。我々日本人にはあまり馴染みのない(キリスト教徒の方は別ですが)「復活祭」ですが、ゴルゴダの丘で十字架にはりつけにされて処刑されたイエス・キリストが自分の予言通りに3日後、見事に「復活」を果たしたという奇跡が起源です。ちなみにその復活した場所は今もイスラエルのエルサレムに現存していて、はりつけにされゴルゴダの丘も、イエスの遺体を横にした岩のベットも、そしてレオナルド・ダビンチの傑作としても有名な「最後の晩餐」の部屋も、2000年の時を経ても見ることができます。という番組をTVの「ヒストリーチャンネル」で見ました。歴史の舞台が今でも実際に見ることができるので、安全が確保され、チャンスがあれば訪れてみたいものです。私は残念ながらクリスチャンではありませんが、興味は大いにあります。「ダ・ビンチ・コード」にも一時はまりましたし・・・。
戻ります。
一般的にフランスの「復活祭」では仔羊料理をよく食べます。その仔羊は、アニョ・パスカル(Agneau Pascal) 又はアニョ・ド・パック(Agneau de Pâques)と呼ばれていて、仔羊は「おとなしく従順」で「再生」や「よみがえり」のシンボルでもあり、また十字架にはりつけられたイエスの「神の仔羊」というイメージでもあるのだそうです。▲高良康之シェフによるラムラック・フルムダンベールソース(FFCC&MLAラムセミナーより)
この時期、お肉屋さんやスーパーマーケットでは仔羊の肉がバンバン売れます。それが原因なのか私が働いていた何軒かのレストランは、いつもよりも少し暇だったと記憶しています。田舎のレストランは二つ星と言えども大忙しとはならず、シェフやスゴン(2番手)と試作を繰り返す日々で、キュイジニエの人数もセゾン(ハイシーズン)中よりも少なめにしていて、嵐の前の静けさ的な時間が流れていました。もうちょっと暖かくなってくるとテラス席が設けられて、予約が昼も夜もバンバン入り始め、連日満席以上の地獄(天国?)の日々が次のフェルメまで長く長ーく続くのです。
もうひとつ「復活祭」のお菓子としては、アルザス地方の「Agneau pascal(アニョー・パスカル)」が有名です。雄羊の形をした可愛らしい別立て生地のお菓子で粉糖をふられてリボンまで結ばれています。残念なことに私は実物を見たことはないのですが、今思うと以前訪れたストラスブールのパティスリーで「型」だけは見かけていました。ただその時は「アニョー・パスカル」自体を知識としてまったく持ちあわせておらず、「珍しい型だなぁ。」ぐらいでした。アルザス地方「Kouglof(クグロフ)」のページでも書いた通り、その時の私は「クグロフ型」ばかりに目を配っていました。お恥ずかしい。完全に勉強不足丸出しの28才でした。
ベリー地方の復活祭の料理さて、ざっと「復活祭」の背景を読んでいただいたので、ここからは今回のお料理<Pâté de Pâques berrichon>についてです。サントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏のBerry (ベリー地方) に古くから伝わる伝統料理で、「ゆで卵が入ったミートローフパイ」という感じです。ロワール地方のこの辺りでは、今でも「Pâques」の時は「仔羊料理ではなく、この「復活祭のパテ ベリー風」が家庭のキッチンやトレトゥール(Traiteur・惣菜店 )で作られ、大人にも子供にも食べられています。もちろん焼きたて熱々で食べますが冷めても美味しくいただけます。中に入っている卵は「生命の誕生を表す象徴」なので「復活祭」には絶対欠かせないアイテムです。
お部屋の中や庭にカラフルにペイントされた卵を飾りつけたり、Chasse aux œufs(シャス・オ・ズ)といって大人たちが隠した卵型のチョコレートやお菓子を探す「卵狩り」をフランスの子供たちが楽しんだりと卵尽くしの
一日です。他にも「うさぎ(子孫繁栄の象徴)」型のチョコレートや「鐘(教会の鐘の伝説)」型のチョコレートなども登場します。
▲この時期スーパーにずらりと並ぶうさぎの形のチョコレート
在仏2年目の「Pâques」では、キュイジーヌの仲間たちと昼の営業後、シェフを筆頭に全員で卵を何個もブルブル。バーマンの様によく振ってから殻に一か所小さな穴をあけて中身を出して、殻の表面に思い思いにマジックで色を付けて、マダム(シェフのママン)に渡してから休憩に入ったことがありました。色どりされた空の卵は村の子供たちのChasse aux œufs(シャス・オ・ズ)に使われたそうです。もちろん休憩後の我々のペルソネル(まかない)は、オムレツでした。これが私の唯一の「Pâques」での思い出です。(シェフM.T)
▲中に入っている卵は「生命の誕生を表す象徴」なので「復活祭」には絶対欠かせないアイテム。好みでディジョンマスタードを添えて食べても美味しい