レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
ナントは大西洋にも程近いため、セーヌ河からもたらされる川魚だけでなく、海魚にも恵まれています。本来はヒメジ(rouget)のレシピですが、今回は手に入らなかったためイトヨリで代用しています。グリンピースや姫ニンジンを添えた春の訪れを感じさせる一品に仕上がりました。
さて、ヒメジ(rouget)というと、フランスの沿岸地方ではグリエにすると美味しい魚として昔から定評がありましたが、かつては傷みやすいので、パリなどでは食べられていませんでした。今はパリのマルシェはもちろん、スーパーでも簡単に手に入るようになりましたね。とはいえ、日本人基準からすると新鮮でないものもあるので、買うときは、お任せでなはくしっかりこれとこれ、と選んだものを袋にいれてもらう、しっかり見極める、ことをお勧めします。今月もシェフのエピソードと共にお楽しみください。
材料
<材料>(4人前)
- ヒメジ(今回イトヨリ):80g×4切れ
- エシャロット(アシェ ※1):50g
- 白ワイン(ミュスカデ):375ml
- 白ワインビネガー(マイユ社):30ml
- グラス・ド・ヴィアンド(※2):30g
- バター:100g
- パセリ(アシェ):適量
- 塩、胡椒
<フランス料理用語注釈>
※1・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
※2・・・グラス・ド・ヴィアンド(glace de viande) フォン・ド・ヴォーを煮詰めたもの。料理の仕上げなどに少量加えてコクとうまみを補う。
※3・・・・・・バターモンテ(monter au beurre)バターを少量ずつ加えてなめからな舌触りと輝きのあるものに仕上げること
作り方
- 魚を水洗いし、フィレにする。ふり塩をしてしばらくおく。
- ①を3%の塩水で手早く洗い、余分な水気をふき取る。胡椒をふる。
- バターを塗った鍋に魚をき、エシャロットをちらす。
- 白ワイン、白ワインビネガーを注ぎ、蓋をして直火にかける。(強火から中火へ)
- 魚に火が通ったら、鍋から取り出して保温、煮汁にグラス・ド・ヴィアンドを加え、煮詰める。
- バターモンテ(※3)して、塩・胡椒・レモン汁で味を調えソースを仕上げる。
- ガルニチュールの野菜を下処理後、スチコンで加熱する。(スチームモード・100%・100℃・5分)
- 火入れしたガルニチュールをソースに加えて温め、パセリを加える。
- (盛り付け)お皿に魚、ガルニチュールを盛り付け、ソースをかける。
▲ゲランドの塩を効かせたパンを添えて。塩で有名なゲランドもペイ・ド・ラ・ロワール地方。セーヌ河が大西洋に注ぐ河口からすぐ
シェフエピソード
今回は、フランスの西部、大西洋への玄関口としてロワール川河畔に位置するPays de la Loire地域圏の首府であり、フランス国内第6位の都市でもある「 Nante/ナント 」の魚料理をご紹介します。パリからTGV(高速鉄道)でたったの2時間。ナントと言えば、まず、この地で創業したお菓子メーカー(ビスケット等)の「LU(リュ)」が有名ですよね。休みの日のおやつとしてスーパーやガソリンスタンドでよく買って食べていました。その時はナントのメーカーとは知らずに・・・。「MIKADO/ミカド」を出しているメーカーと言ったほうが、ご存じの方も多いのではないでしょうか。(日本のグリコのポッキーが「MIKADO」としてフランスで製造販売されています)懐かしいですね。
さて「Rougets à la Nantaise」です。今回は、残念ながら「ヒメジ」が手に入らなかったので代わりに「イトヨリ」で代用します。すいません。
この料理は、Escoffierの「Le Guide Culinaire」によると魚をグリエにして、グラスドビアンドを加えた白ワインベースのバターソースに魚肝を加えたものを添えるとなっていたと思います。が、今回は、この後のエピソードにも登場するトゥールの「Jean Bardet / ジャン・バルデ」で食べた「Brochet à la Nantaise」(川かますのナント風)に近いかたちで作りました。魚のキュイ(火入れ)は、グリエではなく、ブレゼ(蒸し煮)で。ソースは、軽い感じで、ガルニは、庭園の採れたて野菜という感じです。
さて、このソース、実は、ソース・ベアルネーズを作る際に卵を入れ忘れた失敗から誕生したと言われていて、ナントが発祥の地だそうです。何故卵を入れ忘れてしまったのかよくわかりませんが、よっぽどうわの空だったのでしょう。Anjouにもクリームを加えた同じようなソースがあるらしいです。どちらがソース・ブール・ブラン(白バターソース)の発祥の地なのか争っていた時もあったとか。(本来はクリームは加えませんが)技術的にはクリームを少し加えるとソースが分離しにくくなり、成功率が上がるのです。もちろん白ワインは、地元のMuscadetです。
以前、 「Quenelles de brochet à la lyonnaise」の時に川魚について書きましたので(https://www.ffcc.jp/recipe/2021/01/post-5.html)、今回は、海の魚についてのお話を。私がフランスで扱ったのは、ルージェ、舌平目、平目、鯛、鮟鱇、スズキ、的鯛、鱈、鰻ってところです。ポワソニエの期間が短かったので種類的には少ないです。魚の他に甲殻類、貝類、魚卵も扱うので、仕込みと管理が結構大変でした。魚は鮮度が命なので、保存方法が重要です。日本では見なかった魚専用冷蔵庫があり(タンス型大型冷蔵庫)、直接、氷が魚に触れないように気を付けて、下処理した魚、甲殻類、貝類をその中に入れていきます。あのデカ缶のキャビアもです。
朝、満杯だった冷蔵庫も営業終わりには、すっからかんになるので、引き出しも全部外して、きれいに水洗いします。ビカビカに。
ペルソネル(賄い)では、ほとんど毎日肉料理なのですが、だいたい週一ペースで魚料理を食べていました。その時に登場する魚はダントツでルージェの頻度が高かったです。もちろん足がはやい魚なので、状態が今一なものは、すぐペルソネルへ。それとは別にペルソネル用にフィレにおろされた小型のルージェもよく見ました。みんなが好きだからなのか、シェフが仕入れてくるのです。ただアセゾネして焼いただけで美味しいので、魚食いの日本人としては納得です。でも1人小さなフィレ1枚だったので・・・。量的に全然足りませんでした。ガルニのバターで和えただけのパスタでお腹を満たすしか・・・。余談ですが、フランス人の同僚はみんな、パスタを食べるとき、いちどナイフ・フォークで切り刻んでから口に運んでいました。フォークでクルクル巻く姿は見たことがありません。「郷に入っては郷に従え」で、私もそうして食べていました。
▲粘土層に引き込まれた海水を天日と自然の風で結晶化させて作られる。ゲランドの塩の歴史は1000年以上の歴史がある
さて、ここからトゥールの食べ歩きの続きです。(初日のエピソードはレシピの話「クレメ・ダンジュ」ペイ・ド・ラ・ロワール地方をご覧下さいhttps://www.ffcc.jp/recipe/2021/10/post-12.html)
二日目、当時二つ星「Jean Bardet / ジャン・バルデ」に向かいます。今日もミシュラン片手に一人ぽっちで歩いて行きます。緑に囲まれた敷地の門の前に立ちます。レストランの建物はまったく見えません。どうやら広大な敷地のようです。緑豊かな坂道をのぼっていくと建物が見えてきました。ドアを開け、予約の名を告げると、ふくよかなマダムが席まで案内してくれました。キュイジニエ、バレバレです。案内されたのは、一人なのに大きな円卓です。周りのテーブルは、ほぼ埋まっています。アジア系は、私だけのようです。「あれ、場違い?」そんな気になりました。マダムが大柄なシェフを連れてオーダーを取りに来ました。笑顔のご夫妻です。「キュイジニエ?」最初に聞かれまた。「どこで働いているの?」まるで面接を受けてる感じです。それまで働いた数件のレストランと次に働くレストランの名を伝えます。「よく知ってるよ。」とシェフ。「お腹空いてる?スペシャリテを作るから。」あれ、予算があるんだけどな・・・。ウインクしながらシェフは消えていきました。
入れ替わりに、シャンパーニュが運ばれてきました。注文してないのに・・・。ありがたいことです。アミューズから少量盛りの料理が次々とサーブされます。どうやらMenu Dégustationのようです。が、お金が足りるか・・・。「トリュフと可愛い野菜のサラダ」や「カエルのクレソンスープ」、「川カマスのナント風」などなど。と贅沢なランチでした。食後、シェフが調理場を案内してくれました。立派な広いキュイジーヌです。もうキュイジニエの皆さんは休憩に入ってしまったようで誰もいません。と思ったら端の方でキュイジニエが一人で作業していました。見た感じ日本人のようです。嬉しくなって日本語で挨拶しましたが、シカトされました。もしかしてフランスで病んでしまったのかな・・・。
シェフに調理場を見せていただいた後、広い庭園内の野菜やハーブの畑も案内していただきました。感謝、感謝の昼食でした。ちなみにお金はギリギリ足りました。セーフ!