レシピの話

フランス地方料理を巡る旅

オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方

カワカマスのクネル リヨン風

Quenelles de brochet à la lyonnaise

グラタン皿3.JPG

オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方からのレシピをご紹介します。
以前は「オーヴェルニュ地方」と「ローヌ=アルプ地方」の二つの地方に分かれていましたが、現在は一つの地方区分となっています。『カワカマスのクネル』はローヌ=アルプ地方側の料理。ローヌ=アルプ地方といえばアルプス山脈やレマン湖、その自然から湧き出るエヴィアン水など美しい自然に恵まれ、冬は多くのスキー客が訪れます。一方、フランス第2の都市リヨンは商経済の中心地であると同時に、美食の街としても知られています。旧市街を含む街の一部はUNESCOの世界遺産に登録されており、美しい街並みも見どころの一つ。
熱々のエクルビスのソースと白身魚のクネルはこの地方の代表料理として愛されています。海のない地方ならではの一品です。ぜひコート・デュ・ローヌのワインと一緒にお楽しみください。ちなみにクネル(quenelle)の語源はドイツ語のお団子を意味する(Knödel)だそうです。
リヨン教会.jpg

   リヨンを見下ろす丘の上に建つ、フルヴィエール(ノートルダム大聖堂)

材料

<材料>(4人前)
クネル材料.JPG
  • クネル
  • 真鯛:150g
  • 帆立貝:125g
  • パナード
  • 牛乳: 100ml
    バター: 40g
    薄力粉:20g
    卵黄:1個分
  • バター(ポマード状※1): 50g
  • 卵白 : 70g
  • 生クリーム: 80ml
  • ナツメグ: 少々
  • エスプレッド・ピーマン(パウダー): 少々
  • 塩・胡椒
  • リ・オ・ブール(バターライス)
  • バター:40g
  • 米 : 350g
  • タマネギ : 35g
  • ニンジン : 35g
  • ブイヨン(チキンコンソメ顆粒): 450ml
  • パセリ(アシェ※2): 少々
  • 塩・胡椒
  •  ライス.JPG
  • ソース・ナンチュア
  • バター: 20g
  • エクルビス※殻付き : 300g
  • タマネギ(エマンセ※3): 40g
  • ニンジン(エマンセ): 400g
  • セロリ(エマンセ): 20g
  • トマト(コンカッセ※4): 180g
  • トマトコンサントレ:15g
  • にんにく(エクラゼ※5): 1片
  • コニャック: 20ml
  • 白ワイン: 150ml
  • フュメ・ド・ポワソン※6(または水): 600ml
  • 生クリーム: 150ml
  • ブーケガルニ: 1本
  • 塩、胡椒

<フランス料理用語注釈>

※1・・・ポマード状(pommad) 濃いクリーム状のもの
※2・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
※3・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする
※4・・・コンカッセ(concasser) 粗く刻む
※5・・・エクラゼ(écraser) 押しつぶす
※6・・・フュメ・ド・ポワソン(fumet de poisson)魚のフュメ、魚の出し汁

作り方

  • シュー生地の要領でパナードを作る。鍋に牛乳・バターを入れ、火にかけ、バターが溶けたら薄力粉を加え、練る。火から外し、卵黄を加え、よく混ぜる。冷やす。
  • フードプロセッサーに魚切り身・帆立・少量の塩を入れ、よく回す。裏ごしし、再びフードプロセッサーに戻し、パナード・卵白・バターを加え、よく回す。氷をあてたボールに移し、生クリームでのばし、スパイス、塩・胡椒で調味する。
  • この生地(約100g)を大きなスプーン等で、フットボール型にし、塩を入れたお湯で茹でる。水を切る。
  • ソース・ナンテュワを作る。鍋でバターを熱し、エクルビスを殻付きのまま炒める、次にミルポア(タマネギ、ニンジン、セロリ)を加えて炒め、さらに、にんにく・トマトを加え炒め、液体類・ブーケを加え30分煮る。粗熱が取れてからミキサーにかけ、漉して、生クリームを加え煮詰め、塩・胡椒する。
  • グラタン皿に茹でた生地(クネル)をのせ、ソース・ナンテュワをかけ、スチコン(オーブン)で加熱する。
      ● スチコンの場合 : ホットモード・100%・230℃ 5分・風量4
      ● オーブンの場合 : 240℃・5〜6分
  • 鍋でバターを溶かし、野菜と米を炒め、ブイヨンを注いで沸かし、蓋をしてスチコン(オーブン)で加熱し、その後、蒸らす。
      ● スチコンの場合 : コンビモード・100%・170℃ 18分・風量4
      ● オーブンの場合 : 180℃・20分
  • 熱々のクネルにバターライスを添える。
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シェフエピソード

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リヨンの魚料理と言えば、いの一番にこの「 Quenelles de brochet à la lyonnaise /クネル・ド・ブロシェ・ア・ラ・リヨネーズ」が頭に浮かびます。多分、旅行でリヨンを訪れたことがある方は、ほぼ100%召し上がっているのではないでしょうか。それだけポピュラーな美味しい郷土料理です。私も在仏中に3回、日本に帰国後、新婚旅行で1回と合計4回、リヨンを訪れていますが、うち3回は、旧市街のビストロでこの「クネル」を食べました。もう1回の新婚旅行は、大奮発して三ツ星(当時)の「ポール・ボーキューズ」での豪遊でした。パリからの日帰りでしたので「クネル」は、その時は残念ながらお預け。まあ、その話は、またどこかで・・・。

 この「クネル」の主材料が、川魚の「Brochet・ブロシェ/カワカマス」です。日本では使ったことがありませんでしたが、歯が鋭く危険な雰囲気が漂う風貌で、尚且つ、三枚に卸すには、相当技術が必要な魚です。なんせ骨が今まで見たことのない構造なので、ナイフの入れ方を工夫しなくてはならず、初めて卸したときはひと苦労でした。でも、このブロシェをあるお店のスゴン(副料理長)は、何とペティナイフだけでおろしていました。Saumon(鮭)もペティナイフだけです。どちらも大型の魚です。「え!マジ!ペティナイフで! あれ・・! でも逆に器用だなあ。」と。

 クネルは、このブロシェをすり身にして、バターや生クリーム、卵を加えて混ぜていきます。ここまでは、普通の魚のムースと同じですが、特徴的なのが「Panade/パナード」という「つなぎ」を加える伝統的な工程です。これを加えることにより、ソースに負けないしっかり、どっしりなものになりますが、現代的に軽さを求めてパナードを加えていないルセット(レシピ)を紹介している日本の料理書も結構あります。今回は、残念ながらどうしてもブロシェを入手できなかったので、鯛と帆立で代用しました。鯛帆立エクルヴィスワイン.JPG

私が働いたどのレストランでも、このブロシェをクネルにはせず、ポワレ(フライパン焼き)やブレゼ(蒸し煮)などの調理法を用いて、ガルニチュール(付け合わせ)とソースとエルブ(ハーブ)で個性的な料理に仕上げていました。ビストロ的なイメージのブロシェですが、しっかりグランメゾンの高級料理にもなるんです。他に川魚だとSandre(サンドル/カワスズキ)もレストランでよく使っていました。

 ここで現場のお話、フランスにいた頃、大体の日本人は、レストランに入店すると、まずポワソニエ(魚料理担当)に配属されます。日本人は、魚の扱いが上手だからが理由のようです。例にもれず私も働いたお店の半数は、ポワソニエからでしたが、1週間後には、ビアンド(肉料理担当)かソーシエ(ソース担当)に移るのが、お決まりのパターンでした。なのでガルドマンジェ(前菜担当)とパティシエ(デザート担当)は、ほとんどやったことがありません。(前にも書きましたが、1か月だけパティシエはやりました。)いわゆるストーブ前(魚、肉、ソース担当の部署)を中心に働いてきたので、それもあってか日本に帰国して32歳で初めてシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)を任された時、冷前菜とデザートのメニュー考案に大変苦労しました。勉強不足でした!

 話を「クネル」に戻しましょう。このクネル、何といってもソースが飛び切り美味しいんです。Sauce Nantua /ソース・ナンテュアと言って、Écrevisse(エクルビス/ザリガニ)を潰して作る伝統的な濃厚クリームソースです。リヨンの隣のアン県の街「ナンチュア」が発祥の地です。今回、使用したザリガニですが、ヨーロッパ産ではなく、阿寒湖のウチダザリガニを使いました。けっして私が小学生の頃に池で釣った「マッカチ(横浜での呼び名です)」ではありません(笑)。エクルビス.JPG

 このソースをグラタン皿に盛ったクネルにたっぷりかけ、オーブンの高熱でグツグツやってからバターライスと共に食べるのが熱々で最高なんです。でも、くれぐれもお口の火傷には要注意。私は、毎回火傷してましたから。昔、フランスでは、そこかしこの小川で捕れたらしい「エクルビス」です(ある歴史あるレストランのマダムが敷地内に流れる小川で天然エクルビスを捕って料理し、お店で出していたと話してくれました。)が、今は、Marché(市場)から買ってきます。私がいたお店では、調理場の裏に流れている小川(生意気な子は、ここに投げ込んで反省させてました。当時は腕力も必要で・・・。)にエクルビス用の生簀(いけす)のマンホールがあり、その中の網で放し飼いにしていました。仕込んだものが足りなくなると、ガルドマンジェが飛んで行って、網を上げ、必要分を捕ってきて、急いでクール・ブイヨン(野菜ブイヨン+ビネガー)でキュイ(火入れ)し、デコルティケ(殻から外す)してから使っていました。そのレストランでは、鱒・イワナは、テラス席横の生簀へ、オマール海老(ブルターニュとカナディアン)は、レセプション横の水槽へとオーダーが入るたびに、調理場に常備している網を持って、ガルドマンジェやポワソニエのアプランティ(見習い生)がダッシュします。彼らが学校で休みの時は、コミ(助手)が行きます。夏のセゾンは、室内もテラスも満席なので網を持った彼らが客席に登場すると自然に周りから毎回、拍手がおこっていました。調理場に聞こえるくらいなので、相当な人数の拍手です。網で捕るのが上手な子とそうでもない子がいるので、どの子が捕りに行くかによって、その後の私の担当の調理やお客様の食事の流れが大きく左右されます。調理場のキュイジニエ達は冷や冷やもんです。1分1秒でも早く来ないかと準備万端、調えて待っています。

 いざ、鱒やオマール海老が到着するとポワソニエは、大忙し。うろこ・内臓を水洗いしたり、下茹でしたりとバタバタしながらでも、3人体制でスピーディーに一皿を仕上げていきます。流石です。その様子を対面で見ながら私は、様々な肉を焼きだすタイミングを計り、ガルニの準備を部下に指示し、ソースやジュの煮詰具合を確認していきます。ひとつでもミスると、とんでもないことになってしまうので意識を集中して注意深く、スピーディー且つ繊細に仲間たちと共に調理しなければなりません。サービス中、この「超しびれる時間」が夜遅くまで、数時間続きます。

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リヨン旧市街.jpg

15世紀ごろから絹織物工業と印刷業で繁栄したリヨン。ソーヌ川沿いに石畳の道や往時の建物が残る旧市街から、クロワ・ルースにかけての歴史地区が世界遺産に登録されています。

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