レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
月の名の終わりに『ER(フランス語だとRE)』が付く月は牡蠣が美味しいシーズンと言われます。Septembre(9月)、Octobre(10月)、Novembre(11月)、Décembre(12月)、Janvier(1月)、Février(2月)がそれにあたります。市場で殻付き牡蠣を仕入れ、軍手と牡蠣用のオープナーナイフを手に殻外しをしたことが思い出されます。
日本のように生食用、加熱用と綺麗に殻から外されパックに詰まったものはフランスでは見かけたことがなく、食べるためには一仕事が待ち受けています。苦手な人は魚屋さんや、この時期だけオープンする牡蠣のお店に頼むと牡蠣の殻を開け、氷を下に敷き詰めた上に並べて皿盛りしてくれたり、他の貝やエビなどと美しいフリュイ・ド・メール(海の幸)のプラトー(皿盛り)を作ってくれたりします。
生きている牡蠣ですから、食べる直前に殻を開けていただくのが一番。ミネラルや塩味、汁気がたっぷりで、たまらない美味さです。
今回は、さらにひと手間加え、シャンパンを料理に使った牡蠣のレシピのご紹介です。牡蠣を茹でるのにシャンパンを使うのはも、も、もったいなくないですか?!・・・とお酒を愛する私が恐る恐る話してみたのですが、予定通りシャンパンを使って仕上げられました。でもシャンパンは火を通しても香りや味わいが素晴らしく、さすが、と唸る絶品の一品となりました!
年末年始や特別な日などにいかがでしょうか?
材料
<材料>(2人前)
- 牡蠣: 12個
- バター: 25g
- エシャロット(アシェ ※1): 50g
- マッシュルーム(エマンセ ※2):15g
- シャンパーニュ: 350ml
- 生クリーム: 200ml
- ソース・オランデーズ:100g
- 塩・胡椒
- <ソースオランデーズ>
- 卵黄 : 1個
- 水 : 23ml
- 澄ましバター : 100g
- レモン汁 : 適量
- 塩・胡椒
<フランス料理用語注釈>
※1・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
※2・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする
作り方
- 牡蠣を殻から外し、塩水でさっと洗う。牡蠣汁は、漉す。殻をよく洗う。
- ほうれん草を掃除し、葉をさっとバターソテーし、塩、胡椒で味を調え、殻に盛る。
- 鍋にエシャロット、マッシュルーム、シャンパーニュ、牡蠣汁を入れ、沸かす。
- 牡蠣を入れ、8割火を通す。牡蠣を取り出し、ほうれん草の上にのせる。保温しておく。
- 煮汁を半量に煮詰める。生クリームを加え、再び半量まで煮詰め、漉す。
- <ソース・オランデーズ>を加え、さっくり混ぜる。味を整える。
- ソースを牡蠣にかけ、サラマンドル※(上火の焼き物器)で焼き色をつける。
- 岩塩を盛った器に並べる。
※サラマンドルがない場合は、ガスバーナー、トースター等で代用する。
<ソースオランデーズの作り方>
- ボールに卵黄と水、塩・コショウを入れ、湯煎にかけて、しっかりと泡立てる。
- 湯煎から外し、澄ましバターを1と同温度に調整し、少しずつ、1に加え、乳化させる。
- レモン汁を加え、ボール底から全体をしっかり混ぜる。
シェフエピソード
フランスでは、我々、キュイジニエ(料理人)の間では、お店を辞める時(次の店に移るため)に「シャンパーニュ」を皆にご馳走するという習慣があります。でもお金がない人たち(若い子と私)は、「パスティス(ハーブが香るリキュール)」を水割りで濁り酒にして、ふるまっていました。発泡酒ではありませんが、結構、香りは癖になります。決して中毒性があった昔の「アブサン」ではありません。ニガヨモギを用いていない「アブサン」の代替品で、堂々と買えるリキュールです。
とにかく懐に優しいんです。・・・なので、私にとって「シャンパーニュ」は、誰かにご馳走してもらう贅沢な、そして高価なお酒でした。逆に料理には、惜しむ事無く、日本では考えられない量をドボドボ使っていましたけど・・・。
シャンパーニュ地方はもちろんのこと、世界中の多くのレストランメニューに載っています。今でもシャンパーニュ地方の名物料理ですし、リッチな家庭料理としても定着しています。たっぷりの「シャンパーニュ」で作った濃厚なソースとソース・オランデーズ(レシピ参照)を合わせて、殻に盛った牡蠣(シャンパーニュで茹でた)にかけ、焼き色を付けるという調理手順です。熱々でとっても美味な寒い季節のご馳走ですが、ビジネスとしては、原価がびっくりする程かかるので、儲けは少ないです。但し、本物のシャンパーニュを使うとですが・・・。 今回は、何と「TAITTINGER・テタンジェ」を使っています。
余談ですが、40年程前、かつてのパリの三ツ星で革新的なレストランとして一世を風靡した「ヴィヴァロワ」のクロード・ペローシェフは、この料理のソースにカレー粉を加えて、まったく新しい料理に作りかえ、世界のフランス料理界にセンセーショナルを巻き起こしました。他にも世界中のシェフが模倣した有名な「赤ピーマンのヴァヴァロア」も彼の創作です。
私が修業を始めた頃、日本でも「牡蠣のシャンパーニュ風」は、秋冬の定番で、先輩方がサラマンドル(上火の焼き物器)の中を覗き込みながら、それはそれは美味しそうな牡蠣を注意深くグラチネ(グラタン)していた光景を洗い場からチラチラっと見ていました。うっかり、手を止めて見てたりすると、先輩方から罵声の集中砲火(自分の仕事に集中しなさい!という意味で・・・たぶん。)を浴びてしまうので、あくまで「チラ見」です。
「あー。何時になったら先輩みたいにあんなすごい料理が作れるようになるんだろう?」毎日、そんなことばかり考えながら、終わりの見えない戦場のような調理場で洗い場に命をかけていた十九歳の私でした。
<ランスの大聖堂の「微笑みの天使」は大聖堂の見どころの一つ>
それました。すいません。「シャンパーニュ」の話に戻します。シャンパーニュ醸造の一大中心地がフランス北部の街「Reims(ランス)」です。パリから約140km、TGV(フランス版新幹線)に乗って約45分です。以外とパリから近いんです。飲む「シャンパーニュ」以外で有名なのが、かつてフランス歴代国王の戴冠式がおこなわれた「ノートルダム大聖堂」です。15世紀、イングランド vs フランスの百年戦争中、オルレアン解放を成し遂げた「ジャンヌ・ダルク」が王太子を導いて、シャルル7世として戴冠させた有名な場所です。ご覧になった方もいると思いますが1999年リュック・ベッソン監督 ミラ・ジョボヴィチ主演の映画「ジャンヌ・ダルク」で詳しく描かれています。そして、パリを散策したことがある方は、見かけたことがあるかもしれませんが、パリのルーブル宮の西北端のピラミッド広場、ホテル・レジーナ・ルーブル(Hotel Regina Louvre)前にある金ぴかの騎馬像。
あれも「ジャンヌ・ダルク」です。ここで、ジャンヌは、戦いで受けた傷の手当をしたそうです。2002年マット・デイモン主演の映画「ボーン・アイデンティティ」のロケ地でもあるので、見覚えがある方もいらっしゃるかなと。
在仏中、たまたま私が次の職場に移るまでの3日間のバカンスとスペインから緊急帰国することになった後輩とのタイミングが合い、彼の長年の夢だった「パリで食べ歩き」をすることになりました。二人で相談して、初日の昼が三ツ星「ランブロワジー」。夜が(当時)二つ星「アルページュ」。そして二日目の昼が少し足を伸ばして、シャンパーニュ地方の(当時)三ツ星「レ・クレイエール(ボワイエ)」と決まり、それぞれ予約を入れました。さすがに3軒とも人気店なので、キャンセル待ちでしたが、運よく3軒とも席を確保できました。初めての3食連続強行軍です。しかし、まさかこんなことになるとは・・。
パリの2軒のお話は、また後日として、今回は、「シャンパーニュ地方」の回なので、二日目の「レ・クレイエール(ボワイエ)」でのエピソードをご紹介します。
この日は、まず出発からつまずきます。パリ東駅の発券窓口で切符を購入する際、私の発音がどうも悪いらしく、「ランス」という駅名が通じません。イントネーションを変えたり、巻き舌で発音したりと、まるでコントのようなやり取りを何度かして、発券された切符を見ると「LENS」。「むむ!スペルが違う。」窓口のマダムにその旨を伝えると、「あーランスじゃなくてランスね。」と。いくら聞いてもその違いがわかりません・・・。が取り敢えず、切符購入成功です。
「Bon Boyage!」(ボンボ・ヤージュ:よい旅を!)と満面の笑みでこちらに手を振るマダム・・・。「・・なろー。」
(今は自動券売機もありますので、旅行される方は、ご安心を)結構、時間をロスしました。フランスの鉄道は、改札もなく(自分で刻印)日本と違い発車到着時間も不正確で、驚くことに発車ベルもないので、急いでTGVの乗り場に向かいます。(自分で刻印)日本と違い発車到着時間も不正確で、驚くことに発車ベルもないので、急いでTGVの乗り場に向かいます。
続きは、「ビスキュイ ランス ド ローズ(Biscuits roses de Reims)」のページで。(シェフM.T)