レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
ワインの王様と言われる「ブルゴーニュワイン」。
これらを生み出すブルゴーニュ地方はパリからTGV(フランスの新幹線)で1時間半。ブルゴーニュ地方の玄関口、ディジョン(Dijon)に到着です。ここから車で南に10分程行くとコート・ドール(Côte d'or)=「黄金の丘」と言われる南北に60km続くブドウ畑が始まります。
なぜ「黄金」なのか?
それは秋になると丘一面に広がるブドウ畑の葉が黄色に変わり、丘一面が黄金色に染まるから。また一説にはロマネ・コンティ、シャンボール・ミュジニー、ヴォーヌ・ロマネ、ムルソー等々偉大なワインがここから生まれ、黄金を生み出すからとも。どちらが真実かはさて置き、黄金に染まる畑の美しさといったら、それはもう!溜息が出るくらいです。
そしてこの頃、秋のブルゴーニュはすっかり肌寒くなり、温かいお料理が恋しくなります。
今回はブルゴーニュの温かい前菜「ウッフ・オン・ムーレット」をご紹介します。家庭でも地元ビストロでも人気のメニュー。レストランでも洗練されたスタイルでお見掛けします。
もちろんブルゴーニュの赤ワインとの相性も抜群です!
材料
<材料>(4人前)
- 卵:8個
- 赤ワイン(ブルゴーニュ):375ml
- 水:375ml
- 赤ワインビネガー(マイユ社):50ml
- マッシュルーム(1/2切り):100g
- ベーコン(バトネ切り※1):375ml
- フォン・ルージュ(下記参照):120ml
- バター モンテ用:30g※2
- バター クルトン用:30g
- パセリ アシェ※3:適量
- 塩、胡椒:適量
- (フォンルージュ)
- バター 30g
- 鶏ガラとくず肉、内臓類:1/2羽分
- エシャロット(切り屑で可):80~100g
- ニンジン(切り屑で可):80~100g
- 薄力粉:5g
- 赤ワイン(ブルゴーニュ産):375ml
- ブーケガルニ:1束
- (フォン・ルージュの作り方)
①鍋にバターを溶かし、鶏ガラ・くず肉・内蔵と野菜をよく炒める。
②薄力粉をふり入れ、全体をよく混ぜ、赤ワインとブーケガルニを加え、ゆっくり1/3まで煮詰め、漉す。
<フランス料理用語注釈>
※1・・・バトネ(bâtonnet)小さな棒状のもの
※2・・・モンテ(monter)バターで仕上げる
※3・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
作り方
- 鍋に赤ワインと水、赤ワインビネガー、マッシュルーム、ベーコンを入れて沸騰させ、10分間煮る。
- 鍋からマッシュルームとベーコンを取り出し、温かい状態で取り置く。同じ鍋に卵を割り入れ、約4分間火入れする。
- 卵を取り出し、温かい状態で取り置く。鍋にフォン・ルージュを加え、濃度がつくまで煮詰める。シノワ(漉し器)で漉し、アセゾネを整えバターでモンテする。
- 器にバターで色付けたクルトンを敷き、卵をのせ、マッシュルーム、ベーコンを添える。
- 赤ワインソースをたっぷりかけ、パセリをふる。
シェフエピソード
ブルゴーニュで働き始めて間もない、まだ寒い時期の休日。散歩がてら、Beaune(ボーヌ)の中心街にある数件のレストランのメニューを覗いてみると、だいたいどの店のメニューにも「œufs en meurette」が載っていました。「・・・。あー!!とうとうブルゴーニュにまで来たんだなあ!」と。ただ知識として知っていた料理名を見つけただけで、いたく感動したことを今も覚えています。
もちろん「Bœuf bourguignon(牛肉のブルゴーニュ風煮込み)」や「Escargot à la bourguignon(ブルゴーニュ風エスカルゴ)」などの定番もメニューに載っていました。盛り付けや味付けは、それぞれのお店で工夫されていて、さっぱり系からこってり系まで様々でした。
私が働いていたレストランでは、「œufs en meurette」がメニューに載ることはなかったのですが、団体客のアミューズ(食前酒のおつまみとしての小さなオードブル)として1~2回程、プティポーションで作りました。
アラミニッツ(特殊なものや基本的なフォン(出し汁)以外、オーダーが入ってからすべての調理を始める)が基本の店でしたので、沸かした赤ワインだけで卵をポッシェ(茹でる)して、その赤ワインにフォンドボー(仔牛のだし汁)とフォンドボライユ(鶏のだし汁)を半々で加えて、短時間で煮詰めてから、日本では考えられない量のバターをたっぷり加えて、ソースに仕上げていくという方法を取っていました。
あと、その店以外では使ったことがないのですが、ソースを煮詰めていく段階で、たまにシェフが近隣のSavigny Les Beaune(サビニーレボーヌ)のワイン醸造所からもらってくる「濃い赤ワイン(オリ入り)」を加えてソースを作っていました(他の赤ワイン系のソースを作るときにも)。それが作っている自分でも惚れ惚れするほどのコクのある、キレキレでビカビカの出来栄えで、思い出しただけでも涎が出てきそうです。美味しかったなあ!
さて今回ご紹介する「作り方」は、そのレストランのやり方ではなく、デジュネ(ランチ)営業後、昼寝のために寮に帰る前、ちょっとしたお手伝いでシェフの義父とエルブ畑の手入れをしていた時の雑談で聞いた方法です。ムッシュも若い頃、キュイジニエ(料理人)だったそうで、それは、相当、昔の調理法だということを私が理解できるフランス語でゆっくり説明してくれました。もしかしたら、これが、郷土料理の原点なのかもしれません。大変興味深い「今で言うところのエコ」なやり方です。(シェフM.T)