レシピの話
フランス地方料理を巡る旅
ドーブ(Daube)をご紹介します。
ドーブはドービエール(Daubière)という蓋付きの鍋を用いて作ることからこの名が付きました。
密閉した状態で出し汁と香味材料を加え、肉や野菜にゆっくり火を通す調理法を指す場合にも使われます。
ドーベー(dauber)という動詞にもなっていて、(肉などを)蒸し煮にする、とろ火で煮るなどの意味で用います。
フランス各地でさまざまなレシピがありますが、どの肉を使うかは自由。地域や季節によってジビエや羊、野ウサギを用いたり、加える食材はさまざまなバリエーションがあります。
家庭によってもそれぞれの味があります。今回のドーブは南仏バージョンでオリーブとオレンジが入っています。ハーブの爽やかな香りと共にお楽しみください。
きりりと冷やしたロゼやしっかりとした南仏の赤ワインとの相性も抜群です。
付け合わせに茹でたパスタも良いですが、今回は『フガス』を添えました。フガスとは葉っぱの形に成形されることの多い、フランス南部のプロヴァンス地方発祥の伝統的なパンのことです。ハーブとオリーブオイルの香りが漂いドーブにぴったり。レシピも載せていますのでご参照下さい。
材料
<材料>(6人前)
- 牛肩肉:1kg
- オリーブ油:適量
- ブランデー:50ml
- 薄力粉:15g
- パセリ(アッシェ ※5):適量
- 塩・コショウ
- A
- にんにく(エマンセ ※1)
- 玉ねぎ(エマンセ):30g
- 人参(エマンセ):300g
- 白ワイン:750ml
- B
- ベーコン(デ※2):150g
- マッシュルーム(半分に切る):150g
- トマト(コンカッセ※3):400g
- 黒オリーブ:100g
- C
- マギーブイヨン:10g
- 水:350ml
- ブーケガルニ:1束
- タイム:少々
- サリエット(サボリー)粉末:少々
- オレンジ(皮はジュリエンヌ※4,果肉は種を除きデ※2):1個分
- (フガス)
- 中力粉(リスドール):250g
- 薄力粉:50g
- 塩:5g
- 砂糖:2g
- ドライイースト:4g
- 水:180ml
- オリーブ油:15g
- ローズマリー:適量
<フランス料理用語注釈>
※1・・・エマンセ(émincer)薄くスライスする
※2・・・デ(dé ) さいの目 ここでは1㎝角位の大きさ
※3・・・コンカッセ(concasser) 粗く刻む
※4・・・ジュリエンヌ(julienne)千切り
※5・・・アシェ(hacher) 細かく刻む
作り方
ガス直火パターン
- 牛肩肉を約60gの大きさにカットし、塩・コショウする。1時間ほどおく。
- Aで一晩マリネする。12時間後、漉して、肉と野菜に分け、肉の水気をきる。
- フライパンでオリーブ油を熱し、肉に焼き色をつけ、ブランデーでフランベする。
- 鍋でオリーブ油を熱し、2の野菜をよく炒め、3の肉を加え、薄力粉を加え炒める。
- 2の漬け汁とCを加え、蓋をして、1時間半~2時間、煮込む。
- フライパンでBをソテーし、鍋に加える。再度、20分、煮込む。
- 少し煮詰め、味を調える。
- 器に盛り、パセリをふる。オリーブ油をかける。
スチコン+ガス直火パターン
- 牛肩肉を約60gの大きさにカットし、塩・コショウする。1時間ほどおく。
- Aで一晩マリネする。12時間後、漉して、肉と野菜に分け、肉の水気をきる。
- フライパンでオリーブ油を熱し、肉に焼き色をつけ、ブランデーでフランベ。
- 鍋でオリーブ油を熱し、2の野菜をよく炒め、3の肉を加え、薄力粉を加え炒める。
- 2のマリネ液とCを加え、蓋をして、スチコンで加熱する。
コンビモード・100%・180℃・50分・風量4 - フライパンでBをソテーし、鍋に加える。再度、スチコンで加熱する。
コンビモード・100%・180℃・10分・風量4 - スチコンから取り出し、少し煮詰め、味を調える。
- 器に盛り、パセリをふる。オリーブ油をかける。
フガスの作り方
- 粉類、塩、砂糖をふるいにかけ、よく混ぜる。
- 30℃の水でドライイーストをよく溶き、数分間、おく。
- 1に3を加え、混ぜ合わせ、良く練る。
- 38℃で60分間、一次発酵させる。
- パンチングし、めん棒でうすく伸ばす。
- 38℃で20分間、二次発酵させる
- 表面にオリーブ油を塗り、ローズマリーを散らす。
- 220℃のオーブンで約10分で焼き上げる。
シェフエピソード
冬のある日、忙しさとホームシックが重なったのか、あるアプランティ(見習い)が作るペルソネル(まかない)があまり喜ばしいものではない日が続いていたので、急遽、掃除して余った牛肉と野菜をかき集め、ココット数個で煮込み、バター和えのパスタと共に出したところ、その子に「タキ!ドーブ美味い。」と言われ、ことのほか好評でした・・・。
むむ!「ドーブって何?」初めて聞く料理名でした。
当時の私は、エスコフィエもレペルトワールも(※1)日本に置いて来てしまって、調べようもないので、そのアプランティに説明を頼みました。
普段とは逆の立場になったことが余程うれしかったのか、少し偉そうに、でも私が理解できるように丁寧に説明してくれました。
ドーブとは、「牛肉や羊の煮込みがポピュラーで皆が大好きな家庭料理である。」「地元の安価なワインは入れるが、フォンは使わず、マギーブイヨンで代用する。」「南仏では、オリーブの実とオレンジの皮が入る。」「うちのドーブは、マカロニやスパゲッティと共に食べる。」等。
自分では、「ブッフ ブルギニヨン」の即席変形のつもりで作ったのですが、エルブ(ハーブ)の使い方やたまたま入れた黒オリーブのおかげで、フランス人は、「ドーブ」として受け入れ、食べてくれたようです。
帰国後、調べてみると、仔羊を用いると「Daube à l'avignonnaise」となったり、南フランス以外の地方でも材料が少し異なるものの、結構普通に食べられている等、新しい知識となりました。
また使用するエルブのうち、「サリエット」のフレッシュは、日本では、なかなか手に入らないので 今回は、粉末(日本ではサボリー/セイボリーとも呼ばれる)を使用しました。(シェフM.T)
※1・・・エスコフィエもレペルトワールも(ここでは現代フランス料理の祖とされるEscoffierというフランス人料理人が著した料理人のバイブル:ギッドキュリネールと、レペルトワールはそのポケットサイズ版を指す)