活動の軌跡
開催報告
講師:渡辺雄一郎氏(Nabeno-Ism)
2022/09/26開催 オンラインセミナー
ターキー(七面鳥)は、高たんぱくで低カロリー、しかも脂肪も少ないヘルシーな肉です。アメリカでは広大な敷地で放し飼いにされているため、ストレスなく、健康に成長します。タンパク質はもちろん、各種ビタミン、鉄分などのミネラルが豊富で、しかもエネルギーは鶏肉の2/3以下ですから、ダイエット食材としても注目を集めています。
その「アメリカンターキー」を、フランス料理の技法を駆使して美味しく料理しました。講師は元ジョエル・ロブション(恵比寿)エグゼクティブ・シェフを勤め、現在は「ナベノ-イズム」(二つ星フランチレストラン)を率いる渡辺雄一郎シェフ。そして特別ゲストとして「レストラン・タテル ヨシノ」元総支配人・田中 優二さんにも参加していただき、焼き上げたターキーのデクパージュ(取り分け)の技術を披露いただきました。
お二人は20代の同時期に恵比寿「タイユヴァン・ロブション」で働かれていた旧知の仲。まさにグラン・メゾンの仕事の再現となりました。
■第一部■ 料理実演とサービスの競演
「アメリカンターキーと旬の根菜をブラックペッパーバターでロースト」
Dinde rôtie et légumes racines de saison et confit de marron au vrai jus
調理デモンストレーションでは、まずターキーを24時間、塩と粗挽き黒胡椒でマリネするところからスタート。そしてターキーのお腹にお米を詰め、タコ糸で縛り、ターキー全体に「ブール・コンポゼ(合わせバター)」をたっぷり塗って、付け合わせの根菜と共にスチームコンベクションオーブンで色よく、しっとり焼き上がるように向きを変えながらローストしていきます。まさにフランス料理の技法がぎっしり詰まった工程です。
お腹に詰めたお米はリゾットに仕立てます。ターキーのように大きなお肉は一日では食べきれません。翌日以降はロースト肉を冷製料理としてサービスしたり、詰めたお米はリゾットにするなど、形を変えて活用できるという提案です。
そして「日本人の自分がフランス料理をどう表現するか」を真剣に考えている渡辺シェフの今回のレシピには調味料として山椒の粉や日本酒が登場しますが、とても上手に使われているので、仕上がりや味わいは王道のフランス料理そのものでした。
次に焼き上がったターキーをサービスコンクール優勝経験者でもある田中優二さんが熟練の技でデクパージュ。丁寧に説明しながら、軽やかな手付きでデモンストレーションしていただきました。サービスパーソンが客前で切り分ける際の重要ポイントは、直接手でお客様にお出しする食材に触れないこと。ナイフとフォーク、スプーンだけでターキーを取り分けて、付け合わせの野菜と共に盛り付けていく技術はどんどん引き込まれるほどに圧巻でした。
なかなか見ることのできないフランス料理のトップシェフとトップサービスマンの技術レベルの高さを体感できたセミナーとなりました。
■第二部■ レストラントーク
「飲食業界が直面するパラダイムシフトをどう乗り切るか!有名レストラン 成功の舞台裏」をテーマに、渡辺シェフに伺いました。
<独立の選択>
ロブションに長く勤務し、49歳から独立して「ナベノ-イズム」を立ち上げました。僕は「経験を積んでからチャレンジしたい」と考えたから、そのタイミングになりました。長く経験を積むことは、信頼も生まれ、信用もされます。僕は若い子には「ある程度一か所で長く勤め上げて、気持ちよく送り出してもらいなさい」と言っています。
<コロナ禍>
「料理人にできることをお店一丸となって取り組む。美味しいものを作ってお客さまに届けよう」
体験したことがない出来事だったので、まずは「どうしよう」でした。一週間ほどお休みして、周りを見ながら「できることをやろう」と考えました。この機会をポジティブに捉えて昔のレシピを引っ張り出して作ったり、「ネットショップ」を開設したりしました。お客さまは簡単に召し上がれて、美味しいものを求めているので、カレーを作りました。12種類のカレーができました。中にはすごく高価なものもあったのですが、喜んで買っていただけました(笑)。
<独立する若い人へ>
その店のテーマ(名前やキーカラー)の方向性をしっかりと決めるのが大事かなと思います。例えば僕の店なら「フランス料理であること、日本人であること」をテーマとして気を付けています。ポール・ボキューズさん、ジョエル・ロブションさんらフランス人と働いてきましたので、そのフランス料理を貫くという考えです。僕のお店からは、フランスと日本という2つの国が見えると思います。
<働き方>
「しっかり休んで、しっかり働く」
うちのお店は、ほぼ週休2日しっかり休んでいます。長い時間ダラダラやるではなく、しっかり集中して短時間で料理を仕上げようと言い続けています。提供するコースが1本なので、予約数に合わせて仕込めばよく、無駄がないシステムにもなっています。時間も短縮できますしね。調理場も、サービスも一体となって、お客さまのためのおもてなしをしよう。「家族がそこに座っているかのように思いながらやろう」と言っています。
<儲かりますか?>
儲かるというか...潰れていないので今ここに立てています。大事なのは意識ですね。スタッフ全員にこの料理はいくらでできているというのを必ず意識させます。プレート1枚破損したときに、それがいくらのものなのか意識してもらいます。道具も食材も大事に扱いなさいと意識を統一しています。
<物価高の対応>
「時の流れに身を任せ」
それは、世の中の動きに合わせるしかないと思っています。高く買ったら、高く売る...というと語弊がありますが、それなりの価格で買っていただく。どうすることもできないですね、世界がこうなってくると。値上げも致し方ないのかなと考えています。
<業務用食材の仕入れ>
ネット時代になって、いろんなシステムができてきたので、対応していけばよいかと思います。昔はファックスでしたからね。便利であれば取り入れていいのかなと思います。
▼東京ガスのおしごとサポート「業務用食品・食材の仕入強化サービス・BtoBプラットフォーム 商談」
これまで幾度もターキー料理を食されてきた「アメリカ家禽鶏卵輸出協会」の方からも、「今まで食べたローストターキーの中で一番美味しかったです!」とお褒めの言葉をいただきました。美味しい料理に仕上げてくださった渡辺シェフ、華麗な手さばきで切り分けてくださったサービスパーソンの田中さん、どうもありがとうございました!
※ターキー提供「アメリカ家禽鶏卵輸出協会」(USAPEEC)
家禽鶏卵商品(チキン,ターキー,ダック,鶏卵)の需要拡大のために、世界の主要な国々で幅広い活動を行っています。高度な生産技術と徹底した検査制度で、アメリカのおいしさを世界に届けています。
※サービス協力「メートル・ド・セルヴィスの会」
▲下から2枚目 試食の様子(ナベノ-イズム神田マネージャー)
▲左から高野さん(料理アシスト)、渡辺さん、田中さん、小松さん(サービスアシスト)
▲渡辺シェフにより盛り付けられたローストターキー。前日からマリネしているため、中までしっかり味がしみこんでいて、驚く程しっとりした仕上がり。ターキー上にかかっているのが山椒パウダー。バターとローストターキーの香りと共にさらに魅惑的な香りを織りなし、味のアクセントにもなっていました。
▲田中氏によって切り分け、盛り付けられたターキー。様々な部位やパリッとした皮も楽しんでいただけるように盛り付けされている。ソースはソーシエールに入れて、サービスパーソンによって目の前でかけてお出しする。
▲一日マリネしたターキーをこれから調理していくところ。紐掛けした後、調味したたっぷりのポマードバターをターキーの全面に塗り、焼き上げる。beaucoup de beurre encore de beurre...フェルナン・ポワン氏の言葉は今もシェフの中に息づいている。
▲サービスで使用する器材。左上のレショーは下から火を当てて保温することが可能。無い場合はカセットコンロで代用してくださいと田中氏。
▲シェフとサービスで仕上がりの確認。この日は一羽を半身ずつ皿盛に。
▲ナイフとフォークを使って肉をデクパージュ(切り分け)していく。
▲中に詰めるお米にはターキーのハツやレバー、スパイスを加える。ターキー焼き上げ後に取りだし、リゾットに。肉汁などエキスをたっぷり含んだお米をリゾットにすることでターキーの活用の幅が広がると、作り方とともに提案
講師プロフィール
同校フランス校シャトー・ド・レクレールに進学。
同年秋よりミシュランの2ツ星 クーシュヴェル「ル・シャビシュー」、
サントロペ「ラ プロポ」にて研修
1989年 東京「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」
2004年 シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」エグゼクティブシェフ
2007年 ミシュラン東京で3ツ星に、2015年まで9年連続で3ツ星を維持
2016年 「レストラン Nabeno-Ismナベ-ノイズム」開業
2022年現在 4年連続ミシュラン2ツ星、ゴ・エ・ミヨ 17点4トック
辻調グループ校友会コンピトゥム副会長、クラブ アトラス副会長
トック・ブランシュ東日本地区委員、クラブ・ド・タスキドール理事
第12回農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞受賞
『レストラン Nabeno-Ismナベノ-イズム』(浅草駅、蔵前駅)
http://www.nabeno-ism.tokyo/
サービスパーソン 田中 優二氏
1989年 「都ホテル 東京」でサービスマンとしてのキャリアをスタート
1994年 「タイユヴァン ロブション」にて日本におけるサービス最高峰を学ぶ
1997年 渡仏。「タイユヴァン」「グランヴフゥール」「レザンバサドゥール」で研修
2003年 「レストラン タテル ヨシノ」支配人
2004年 「クープ・ジョルジュ・バティスト サービス国際コンクール」準優勝
2004年 「第11回メートル・ド・セルヴィス杯」優勝
2012年 「レストラン タテル ヨシノ」総支配人に就任
2015年 シャンパーニュ騎士団 シュバリエ叙勲
2016年 「メゾン タテル ヨシノ」(大阪)サービス アドバイザー
2019年 「ポルトムインターナショナル タテル ヨシノ」(北海道)」 アドバイザー
2021年 「株式会社dhp都市開発」飲食部門プロデューサー
J.S.A.認定ソムリエ、 シャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ
「フランス料理文化センター アミティエ・グルマンド」 幹事
著書:「メートルドテルが創る 奇跡を呼ぶレストランサービス」(キクロス出版)